10-15
十数人の人間は全員男で、若い顔も見えるが大人といっていいくらいの見た目だった。
彼らはどういうわけか二組に別れて戦っているようだった。
(まさか襲われているのか?)
そんな疑問を抱くのにも理由があった。襲われていると思われる方は「馬車を護れ」と言っている男達の方だろう。その銀色の甲冑を見てどこかの騎士だと思った。
しかし、相手はどういうわけかパルテマス帝国の兵士だった。
兵士は10人以上で馬車を襲っていた。
それを見て訳がわからなくなる。何故、兵士が騎士を襲うんだ?
しかし、そんなことはどうでもいい。こんなところで他のことに気をとられている場合じゃない。
1秒でも早くシルヴィを助けに行かなければならないのだから、こんな訳のわからないことに付き合っている暇は俺にはなかった。
そう思って移動しようと俺が足を踏み出そうとした時、馬車に兵士の一人が扉を開けて剣を構えているのが横目で見えた。
その瞬間、全ての時が止まった。
◆ ◆ ◆
「なっ!? どういうことだ? …………もしかして……今襲われてんのは子どもなのか?」
相変わらずこの能力は、俺の意思に関係なく発動しやがる。
無関係の子どもとシルヴィの命、天秤にかけるなら当然シルヴィを選択する。
むしろ【勇気】のお陰で少しだが、時間を稼ぐことができた。そう思うとこの発動は好都合だった。
だが、一歩踏み出そうとした瞬間、警告音が発せられ、目の前に出てきた画面に浮かんだ文字に息を呑んだ。
『この状況から逃げるのは不可能です。
さあ、選択してください。
あなたは目の前で助けを求める子どもを見捨てますか? それとも助けますか?』
いきなり現れたタッチパネルの選択肢は、俺の意思を全く尊重してはいなかった。
俺には、全てを守るための力はなくて、世界にはもっと救いを求める子どもがいる。目の前にいる見ず知らずの子どもがこのまま死ぬとは限らない。人質にされる可能性や殺される可能性は高いかもしれないが、もしかしたら同乗者がいて、子どもは助かるかもしれない。
あんな高そうな馬車だ。一人くらい、子どもを守る人がいたっておかしくはない。
……だから、シルヴィを助けるための時間を1秒でも無駄にしたくない。
『それは本当に優真がしたいことなの? 子どもを助けない理由にシルヴィちゃんを使うのは、シルヴィちゃんが可哀想だよ』
どこからともなく謎の声が聞こえてきた。どこか懐かしい気持ちになって、その声を発した人物を探す。
だが、誰もいない。それはそうだ。時間が止まっていて喋れる者は自分以外にいない。
おそらく幻聴なんだろう。
「……【ブースト】速度5倍! ……あの子を助けるまで動けないっていうのならやるしかないだろ!」
優真はそう言うと大地を蹴り、一瞬でその距離を縮め、剣を振りかぶったままの状態で固まっている兵士の後頭部を鷲掴みにし、馬車におもいっきりぶつけた。
その瞬間、再び時が動きだしシェスカが驚いた素振りをみせているのが背中越しにわかった。
強い衝撃を頭に受けた兵士は、少しの間痙攣していたが、すぐに動かなくなった。
息はあった。
その無防備な背中と息があるという状態が、優真の感情に殺意を呼び込む。
自分の中にいる悪魔がその男を殺せと囁いてくる。
彼らは子どもを殺そうとしている。
彼らは子どもを酷使している。
彼らはシルベスタさんを処刑といって殺し、見せしめにした。
彼らは俺から大切な人を奪っていった。
……生かす理由なんてない。
生かせばまた誰かを不幸にするため、その力を振るうのだろう。
それならいっそのこと…………ここで殺した方がいい。
優真は鞘から引き抜いた刀でとどめをさすことにした。




