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最終章:前編


 全ての戦いが終わったあの日から、5年の月日が経った。

 神喰らいによって死んでしまった神達も、創世神の手によって復活の前兆を見せ始め、地上に住む多くの人間達はそんなことなどなかったかのように、何も知らずに暮らしている。

 あの戦いで生き残ったアゼストの三人の内、俺達に協力してくれたミナという少女以外の二人、父さんとネビアは喰らった神の力を剥奪され、地獄に送られた。

 父さんに抵抗する意思はなく、ネビアもまた、強力な封印でこれから先、目覚めることはないだろう。

 ミナを含めた三人を殺した方がいいという意見も多かったが、創世神の創造神様と時空神様にその意思はなく、俺に色々と委ねてきた。

 念のためにとミナに会いに行ったが、彼女は鉄の女神様と大地の女神様の遊び相手になっていた。端から見れば振り回されているようにしか見えないのだが、彼女の様子を見ればわかる。彼女はもう安心だろう。

 地獄の業火で永久の苦しみを味わう。

 それは恐らく、死ぬことよりも辛いことなのかもしれない。

 だが、彼らは多くの命を奪い、止めねばもっと多くの命を摘み取ろうとした。

 彼らは許されないことをしたのだ。


 今更ではあるが『神々の余興』での結果を発表させてもらおう。5年前の戦いで戦果を認められた俺は、1位の座を2年前に完全復活したキュロスに譲られ、彼はまだこの世界を知らない俺の補佐として、2位の座に着いた。また、準決勝で父さんに敗れたパルシアスが第3位、4位は多くのモンスターを相手に他の眷族を率いて戦ったイルジョネアさん。そして5位には、大地の女神様と鉄の女神様を、ハナさんとメイデンさんが辿り着くまでの間、たった一人でアゼストの二人から守り続けた功績が高く評価され、カリュアドスさんがその座に着いた。


 そして俺は、彼らの協力の下、あの戦いによって抉られた世界の傷を修復することに尽力した。

 そんな中で、一番変わったことといえば、人間達の生活風景だろう。

 人間達の生活環境はガラリと変わった。

 水は豊かとなり、天災の数も激減する。貧富の差も多くの神々の協力の下、減っていっている。

 俺の主神、子どもを司る女神様も、『神々の余興』優勝の権利を最大限に発揮し、今まで非人道的な扱いを受けてきた親のいない子どもや、捨てられ、自分達の手だけで生きていくしかないと思い込んでいる子どもを含めた全ての子ども達を、各国の協力の下、救済の手を差し伸べるよう上級神、下級神問わず全ての神々に勅命を出した。

 階級を重んじる多くの神々はその命令に従い、世界は今、彼女が目指す理想の世界へと生まれ変わろうとしていた。

 まだまだ問題は山積みになるだろうが、今の彼女は最後の神としての仕事をまっとうするのだと意気込んでいる。

 大好きだったラノベや漫画を読む暇すら無いのだそうだ。

 それでも、彼女の表情に後悔の色は見えない。彼女は受け入れている。

 そんな彼女に、俺はいったい何をしてあげられるのだろうか?

 

 その答えがわからないまま、俺達は約束の日を迎えた。

 今日が、騒動が落ち着くまで彼女から神の称号を奪わないという創造神様との約束を果たす日なのだ。


 ◆ ◆ ◆


 優真と子どもを司る女神は、玉座で頬杖をつく創造を司る男神の前に着くと、立ち止まり、彼に対してかしずいた。

 創造を司る男神、彼は優真の主神の子どもを司る女神の実父であり、世界を創った創世神の一角にも数えられている。

 そして、彼の傍には現ファミルアーテ第2位のキュロスが控えている。

「面を上げよ」

 その重苦しく低い声が、優真達の耳に届く。

 今までも、こうして彼の元に赴くことは幾度とあったが、未だに慣れることはない。

「用件を聞こうか?」

 その一言を聞き、自分の緊張を和らげる為に、深呼吸を行う。

「先の戦いで結んだ約束…………果たしに参りました……」

 その言葉を紡いだのは、優真ではなく、神妙な面持ちをした子どもを司る女神であった。


 子どもを司る女神様は、ホムラという少女を生き返らせるという俺の願いを叶えさせる為、父親でもある創造神に頭を下げた。その際、神の称号を捨て、キュロスに嫁ぐという約束を強制的に結ばされることとなったが、彼女は俺の為に受諾した。

 何度も彼女を説得したり、創造神様を説得したりしたが、彼女の意思は揺るがなかった。


「……娘よ、わしは他の者がどう思い、どう動くのか……ほとんど考えた事がない……だから、お主がわしのもとを離れた時も何を思っての行動か……最後まで理解できなんだ……」

 創造神は、遠い目を虚空に向けて語る。その話に口を挟む者は居なかった。

「破壊神のやつも、時空神のやつも、大地の女神でさえ、お主の肩を持つ……だからわしは、お主が間違っていると証明するために課題を課した……出来る限りの支援をしたのも、わしが絶対に正しいと見せつける為だ……」

 そこまで言うと、創造神は、その目を優真の方へと向けた。そこに込められた圧力に、優真は屈しまいと必死に抵抗する。

 しかし、優真が舌を噛み、血を滴らせたところで創造神は口を開くのと同時に威圧感を消した。

「……だが、結果はわしの予想を大きく越えた……今まで誰にも負けてこなかったキュロスに勝ち、アゼストの撃退に貢献……これで認めない……などと言うのは筋違いというやつだろう……」

 その言葉に、子どもを司る女神が驚いたような顔を向けた。そして、玉座から立ち上がった創造神が、段差を一つ一つ降り、遂には優真達と同じ位置までくると、子どもを司る女神の肩に手を置いた。

「良い眷族を持ったな。わしの負けだ。これからも、子どもを司る女神として、世界に貢献せよ」

 その言葉で、女神の頬から涙が滴り落ちる。 

「え……あ、えっと……あ……ありがとう……ございます……」

「うむ……期待しておるぞ」 

 そう言って、創造神は出口へ向かって歩を進め始めた。

 だが、優真は見てしまった。創造神の表情がいつもの仏頂面などではなく、子どもの成長を喜ぶ親のような顔をしていたことに、優真は気付いてしまった。

 そして、それに気をとられていた優真は近くまで迫っていた男の存在に気付かなかった。

「雨宮優真……」

 その言葉で、優真は急いで顔を正面に向ける。すると、目の前にキュロスが立っていた。

 そして、キュロスは再び口を開く。

「次は絶対に負けない。貴様に勝って、彼女を頂くとしよう」

 一方的にそこまで言うと、彼は唖然としている優真の横を通りすぎ、背中を見せたまま去っていった。

「……相変わらず自分勝手なことしか言わないんだな……どうした?」

 優真は隣の主神の異常に気付く。

 彼女は黙って大粒の涙を流していた。そして、涙まみれの顔を優真に向けると、そのまま抱きついてきた。

 その行動に、優真は反応出来なかった。

「優真ぐんのお陰だよぉ……優真君がいっぱい頑張ってくれたから……私の眷族になってくれたから……私……皆と離ればなれにならないですむよぉ~」

 涙で濡れた顔を優真にこすりつけながら、彼女は一時の間、泣き続けた。

 それはまるで、幼い子どものようだった。


「……あれ? ってことはさ! 女神様も一緒に来れるんじゃね?」

 優真が思い出したかのように言ったその発言に、子どもを司る女神の目から涙が止まる。


「そっか! そうだよ! 絶対無理だって諦めてたけど、優真君の神で居られるってことは私も行けるじゃん!」


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