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56-6


「あっそうそう! 優真君が起きたら、真っ先に教えてあげないとね。あの子は色々と凄いけど、まだまだお子ちゃまだから……大人になるまで私がちゃんと面倒見てあげないと……」

 そう言った瞬間、子どもを司る女神は急に寒気を感じて震えた。

「……あれ、なんだろう? 急に寒気が……薄着すぎたかな?」

 肌を擦り、周りを念のために確認するも、彼女はなにも見つけられなかった。

「まぁいいや、じゃあそろそろ戻るね。早く帰らないとミハエラに怒られちゃうから……」

「……1冊だけ」

 椅子から降り、扉の方に向かっていた女神が、その声を聞いた瞬間、慌てて振り返る。

 それは、少女のものとは似ても似つかない男性のものだった。

 子どもを司る女神は、その光景を見て、涙を流しながら破顔する。

「キュロス! なんで……え……だって数年は目覚めないはず……」

 キュロスは起きれそうにはなかったが、確かに目を開けていた。それを見た女神は、嬉しそうに彼の元に駆け寄っていく。

「私にもわかりません……ただ、本を読んでと、何故かその言葉だけは聞こえたのです」

 弱々しい声でそう告げるキュロスの姿を見て、子どもを司る女神は何を思ったのかはわからない。

 ただ、彼女は手元にあった1冊の本を彼に手渡した。

「それじゃあ、これを読んでもらおっかな」

 微笑みながら絵本を手渡してくる彼女の姿を見て、仏頂面だったキュロスの表情が少しだけやわらぐ。

「ええ、喜んで」


 ◆ ◆ ◆


 キュロスによる読み聞かせはたどたどしいものだった。

 座ることすら困難な為、彼は横になりながら読み聞かせをするしかなかった。傍目には、一人で本を読みながら音読しているようにしか見えなかった。

 だが、それを聞く子どもを司る女神は何も言わずに黙って聞いていた。

 ベッドの傍らにある丸椅子に座り、嬉しそうに聞いている。

 そして、終わりはすぐにくる。

 読み聞かせの最中、急にキュロスが本を落としてしまう。

 心配した様子で落ちた本を拾って手渡す子どもを司る女神。

 しかし、彼はもう、本を持つことすら困難な状態だった。

「申し訳ございません、お嬢様……」

「いや、私が無理を言ったんだ。悪かったね、無理させちゃって」

 キュロスに向かってそう言うと、彼女はまた来るよと言って、その場を去ろうとした。

 そんな時だった。

「いつか、私は貴女の眷族に勝利してみせます!!」

 いきなりの大声に驚いたのか、彼女は驚いた様子で振り向いた。 

「今度は正面から、堂々と戦い、貴女に相応しい男になって、絶対に貴女を迎えに行きます! ……だから、その時まで……待っては……いただけませんか?」

 その言葉を聞いた彼女は、キュロスの元に近付き、微笑みながら、そっと彼の手を握った。

「言っただろ。私はずっと待ってる。何十年でも、何百年でも、今度は君を拒んだりしないから……治ったら、いつでも挑戦しにおいで」

 彼女の言葉を聞いたからなのか、キュロスは安心したかのように再び眠りについた。


 ◆ ◆ ◆


 キュロスの眠る病室を後にした子どもを司る女神の背中が見えなくなると、廊下に3人の影が現れる。

「ユウマは大変だね。次の余興では自分が仕える神の障害として立つんだから」

「いや、きっと今の俺じゃ障害にもなりゃしないよ」

 そう言った優真は、病室の中に入り、意識を失ったキュロスの傍らに立つ。

「だってお前はもう、子どもを傷つけること(女神様の嫌がること)はしないだろ?」


 未来なんてものはわからないが、不思議とそれだけは確信が出来た。

 女神様との約束を守る為に体を張って大切な思い出()を守った。

 そんな彼が、女神様を裏切るとはとても思えなかった。

「……さて、俺もさっさと傷を治さないとな……」

 俺はハナさんにそう告げて、皆の待つ病室に戻った。

 

 次章、最終章になります。

 また、最終章は2話構成になっており、1話の文字数がいつもより長いものとなっております。

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