56-4
優真は廊下を歩いていた。
付き添いでいるのは、桃色の髪の少女、ハナだけだった。
「ごめんってユウタン!」
ふてくされたような表情を見せる優真にハナが手を合わせて謝る。
「別に怒ってないさ……」
そんなことを言いつつも、未だにそのふてくされたような表情をやめる様子は見られない。
「別に覗こうなんて思ってた訳じゃなくてさ……なんていうか、シェスカちゃんにユウタンが起きたって聞いて急いで駆けつけたらユウタンとシルシルがいい感じの雰囲気出してて入り辛かっただけで……」
「だからってあのタイミングで入らなくても良くない?」
「それはメイデンに言ってよ。私が空気読んで見守ってるなか、何も考えずに入ったのはあの子なんだからさ……」
ハナの発言に優真は溜め息を吐く。
「……前々から思っていたことなんだけどさ、ハナさんとメイデンさんって仲悪いの?」
確かにタイミング悪く入ってきた二人に色々と言いたくなる気持ちはあった。だが、怒りを抱いた訳ではない。問題はその先、二人は自分のせいではないと主張し、口論までし始めたのだ。
そんなものを見ていてもいい気がしない優真は、今回の顛末も含め、主神の子どもを司る女神に話を聞きにいくと言い、色々と察したシルヴィがハナに優真の付き添いを頼んだのだった。
優真の質問に、ハナが首を傾げる。
「別に? 仲が悪い訳じゃないよ? ただ単にメイデンにだけは負けたくないだけ」
「なんで? 昔は違ったから仕方ないかもしれないけどさ、今は同じ子どもを司る女神様の眷族なんだし、別に敵対する必要は……」
「違うんだよ、ユウタン」
ハナが立ち止まったことで、優真も立ち止まり、振り返る。
「敵とか、味方とかじゃないんだよ……お互いがお互いを認めて、それでこいつにだけは絶対に負けたくないって思える相手……そんな相手に巡り会えることって、すっごく貴重なことなんだと思うよ」
そう言いながら、彼女は優真に微笑む。
「互いに互いを高みに引っ張り上げてくれる存在って訳か……なんかいいな、そういうの……ちょっと羨ましいわ……」
優真は振り返り、そんなことをぼやきながら、再び歩を進め始めた。
そんな優真の視界に、一人の青年が移る。
「あれ? パル君じゃん。なんでこんなところに?」
ハナがそんな疑問を抱いた時には、優真の足は廊下を蹴っていた。
「あれ? ユウ……マ!!?」
そして、優真に気付いたパルシアスにドロップキックを放った。




