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静寂が空間を支配した。
シルヴィは落ち込んだ様子で座り、俺はなんかまずいことを言ったような気がして、なんと言えばいいのかわからなくなる。
こんなときはシェスカに何気ない話でもしてもらって、この空気を壊してほしいところだが、さっきからシルヴィの顔をじっと見て、何も言おうとしていない。
「あ……シェスカ、お兄ちゃんが起きたら呼んでってマリカお姉ちゃんに言われてるんだった」
俺の視線に気付いたシェスカは、思い出したかのような素振りでそんなことを言うと、病室を出ていってしまった。
再び、重苦しい空気が流れるのを覚悟した時だった。
「前にも……こんなことがありましたよね……」
目を下に向けたシルヴィが口を開き、そんなことを言い始めた。
「ミストヘルトータスっていう大きなモンスターと戦った時も、ユーマさんは気を失って帰ってきました……」
「……そうだな……あの時も、目を覚ましたらシルヴィが傍に居てくれたんだよね」
「はい。あの時もすっごく心配したんです。どんなに看病しても全然起きてくれなくて……ふとした拍子に死んじゃうんじゃないかって不安になったりもしました……」
「酷い男だね~! 待ってる女を不安にさせるなんて」
「はい。酷い男です!」
冗談のつもりで言った言葉に、シルヴィは笑顔で俺の言葉に同意してきた。
普段はそんなことを言わない彼女の発言に、俺は驚きが隠せなかった。
「でも、そんな酷い男のことが、私は大好きなんです!」
その思いがけない言葉に、俺は自分の顔が紅潮していくのを感じる。
「絶対に生きててほしいって心の底から思いますし、死ぬかもしれないって思ったら勝手に涙が出てくるんです。そして今、目の前で意識を取り戻しているユーマさんの姿を見たら、涙が出るほど嬉しいんです」
そう言って顔を上げた彼女の表情は、嬉しそうな笑顔ではあったが、涙がぽろぽろと流れていた。
悪い? 心配かけた?
そんな言葉を彼女が本当に待っていたのかと自分の心が訊いてくる。
わかっている。自分の口から出たさっきの言葉を彼女が望んでいなかったことくらい。
今からでも間に合うだろうか?
いや、間に合うとかそういう問題じゃないんだ。
俺が、彼女に言いたいから、その言葉を告げるべきなんだ。
痛みを我慢しながら上半身を起こし、俺はなんだか照れ臭くなって、頬をかきながら彼女の方へ目を向けた。
「シルヴィ……ただいま」
そう言うと、彼女は嬉しそうな表情を見せながら、こう言った。
「おかえりなさい、ユーマさん」




