55-124
刀を収めた優真は泣き崩れてしまう。
そんな彼の耳に、その言葉は届いた。
「……大きくなったな……優真……」
その言葉を聞いた瞬間、優真は涙を溜めた顔で振り向く。
そこには、うっすらとだが、まぶたを開く父の姿があった。
「父さん!!」
仰向けに倒れた優雅に駆け寄った優真。そんな優真を見たからか、優雅の表情が少しだけ柔らかくなった。
「……優真……すまない……」
優雅はゆっくりと謝り、それを見た優真の目から、涙が滴り落ちる。
優真は首を振った。
「俺の方こそごめん……大丈夫? 痛くなかった?」
「……大丈夫だ……痛さなんて微塵も感じなかった……むしろ、途中で受けた攻撃の方が痛かったくらいだ……」
「……そりゃお互い様だよ」
優雅の掠れた声で放たれた笑い声に、優真も小さく笑った。
「……不思議な気分だよ……」
優真の笑みを見ていた優雅が、ひびの入った天井に視線を向け、呟いた。
「……何が?」
「……優真が産まれた時は、こんな戦いをするとは夢にも思わなかった……優真の敵になるなんて……あの頃は思ってもみなかったよ……」
その言葉を聞いた瞬間、優真は心の奥底から何かが込み上げてくるのを感じた。言葉では形容しがたいその何かは、優真の目から涙を流させる。
「……ごめん……俺が父さんを斬ったせいで父さんは……父さんは……っ!!」
「優真のせいじゃないさ。俺は罪を犯した……だから、どんな理由があろうと、罪は償わなければならないんだ」
優真の涙が更に流れる。
そんな優真の頭に、優雅の大きな手が、乗せられる。
それは、ゴツゴツとしていて、女性の手や子どもの手とは似ても似つかない。そんな手で乱雑に撫でられても、本当は痛いだけなのに、その手に撫でられると、不思議と暖かくて、とても心地よかった。
「絶対に……絶対に父さんを地獄から解放するから……」
その涙声で放たれた言葉を聞いた瞬間、優雅の手は止まる。だが、すぐに彼は優真に向かって微笑んだ。
「その時は……一緒に酒でも酌み交わしたいな……」
その言葉を最後に、空間は完全に瓦解した。




