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失敗は許されない。
威力も、殺意も必要ない。
必要なのは、父さんを元に戻したいという強い意思だけ。
優真は一つ深呼吸をして、刀を構え直す。
「ねぇ父さん……俺さ、父さんをこっちで見た時さ、辛い気持ちになったんだけど……それでも本当は嬉しかったんだ。もう二度と会えないと思ってた人が別の世界で生きてた。……嬉しくないはずがないじゃないか……」
刀を握る優真の手に雫が落ちる。
「こんな出会いじゃなくてさ……人間達の住む町とかで偶然会ってたりしたらさ……素直に涙を流して喜べたのに……。お酒を飲みながら色んなことを話したり、皆に父さんを紹介したり……そんなことが出来たら、どれだけ良かったことか……」
優真の体からプラチナ色のオーラが放たれ、辺りを彼の色で染め上げていく。
そして、優真が刀を下段に構えた。
「でも、それはもう叶わない。きっと、ただの眷族に過ぎない俺の言葉なんて神は聞こうとしないだろう。だから……ずっとずっと言えなかったあの言葉を今、言わせてほしい」
優真は地を蹴った。
(十華剣式、最終奥義……)
刀を振りかぶる優真は、儚げな笑顔を浮かべながら涙を流す。
「ありがとう、父さん」
その言葉と共に、優真は優雅の体を斬った。
「天竺牡丹の舞い……」
そう呟き、刀を鞘に収めた優真の背後で、優雅は倒れた。
◆ ◆ ◆
優しくて、真面目な子に育ってほしい。
そんな思いを込めて、優真という名を付けた。
斬られた瞬間、不思議と痛みは無かった。
斬られたはずなのに、優しくて暖かいぬくもりを感じて、自分を縛っていた鎖が断ち斬られたような感覚を感じた。
自分が斬られて感じるのも変な話だが、真っ先に浮かんだ言葉は、その言葉だった。
「……大きくなったな……優真……」




