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スティルマ大森林の中に入った俺は、とてつもないことに気付いてしまった。
シルヴィの居場所が全くわからないのだ。
王都と呼ばれる場所に向かったのだと思うのだが、位置も距離も全くわからない。
朝までいた港町カルアヴェルクは、王都には近いが、遠回りになると聞いた。商業で有名な町、アルバレフを経由した方がいいと前に聞いたことがあるが、このアルバレフに行ったことのない俺にはそこがどこにあるかわからない。
こうして迷っている間も、シルヴィの身に危険が迫っているのだ。……どうすればーー
「あっち」
その声は、背におぶっているシェスカの口から発せられた。
小さな指が指し示す方向には、何の目印もなかった。……だが、シェスカは何かを確信しているかのように、その方向を指し続ける。
「……お姉ちゃん、あっちにいる」
「わかるのか!?」
「……なんか、動いてはいないみたい。でも無事……寝てるだけみたい」
そんな詳しいことまで? ……もしかすると、俺の【ブースト】や【勇気】みたいに、シェスカにもなにかしらの能力があるのか?
……普段こうして疑問が沸いたら、タッチパネルから音がして、うるさい女神と、親切な天使が情報をくれる。シルヴィを一刻も早く助け出したいこのタイミングで連絡がとれないのは痛すぎる。
とりあえず今は、その心配は後回しだ。
「……わかった。あっちだな! 助かったよ」
「うん!」
そして俺は、その方向へと走りだした。
◆ ◆ ◆
優真が走っていると、静かな森に騒がしい音が聞こえてきた。
モンスターは普段夜に活発を持つようになる。昼間のうちは休んでいることが多いので遭遇することは少ないが、まったくいないという訳ではなかった。
(ちょうどいい。どうやら行く方向とも被ってるみたいだし、ここは【ブースト】の発動条件を満たすために向かってみるか)
「……シェスカ、どうやらモンスターが近くにいるみたいだ。迂回して迷うのもバカらしいし、ここはさっさと処理して先を急ごう」
「う……うん、頑張って、お兄ちゃん」
シェスカの声援を受け、腰に携えた刀の持ち手に手をかける。
攻撃を受けた直後【勇気】の発動中にその首を斬る。その後【ブースト】を使って速度上昇、ハルマハラさんから貰った風の神が加護を付与した風避けのローブで俺の身とシェスカの身は護れる。
これさえあればどれだけスピードをあげてもシェスカは安全だろう。
騒音が徐々に近付いてくる。
そして、視界を妨げていた最後の木を避けると、そこにモンスターの姿は一匹も見当たらなかった。
いたのは、馬車と十数人の人間だけだった。




