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「十華剣式、花鳥風月、鳥の型、凰鳥の構え」
その技は、以前のように優真の治癒能力を加速させることはない。だが、その構えの利点はそれだけではない。
先程までごちゃごちゃと余計なことばかり考えていた頭が、呼吸をするのと同時にすっきりしていく。
そんな優真の姿を見て、【噴炎之王】はようやく彼を、いたぶる獲物としてではなく、脅威的な存在だと認めた。
先程までは向かってくるのならいたぶってやろうと考えていたその意識が、間違いだったと感じる程の強烈なオーラ。それが優真から醸し出される。
◆ ◆ ◆
雨宮優雅の特殊能力【噴炎之王】は怒れば怒る程自身を強化する能力である。
かつて炎の神の王となった存在が持つその神秘的でありながらも邪悪な炎は、神をも燃やし、世界に暗雲をもたらすとまで謳われた。
しかし、プロメテウス自身は温和な性格だった。
自身の持つ能力が人や神を燃やし尽くす力であることを知った彼は、その能力を使わないことを決意した。
しかし、そんな彼がたった一度だけ、その神秘的な炎を酷使したことがある。
それこそが、大親友のヘラクレスが神の力を喰らった時である。
全世界から敵と見なされたヘラクレスの姿を見た瞬間、彼は孤独な存在となったヘラクレスのたった一人の味方となった。
多くの仲間を敵に回し、神ですら殺しに殺した彼は、ヘラクレス同様、恐れられる存在となった。
しかし、彼の最後は呆気ないものだった。
ヘラクレスの死は彼に絶望を与え、彼はその身を炎で焼き尽くした。
生まれ変わり、いつか再び彼と再会することを願って。
◆ ◆ ◆
優雅が銃を構え、動こうとしない優真に向かって炎弾を乱発する。
迫り来る炎弾、それを優真は両の目で見据え、最低限の動きで完全に回避してみせた。
その光景を見た優雅は、更に炎弾を放つが、それすらも優真は避けてみせる。
「……やっぱり……攻撃を完全に捨てれば避けれない程じゃないな」
とはいえ、優真の回避もギリギリではあった。
確かに威力は巨大な炎弾よりも低いが、それを補ってあまりあるスピードが小型の炎弾にはあった。
一瞬でも油断すれば、先程の二の舞になる。
だからこそ、優真は神経を張り巡らせて炎弾に対処していた。
俺が攻撃をやめて防御に集中し始めてから、数分が過ぎた時、急に頭がくらっときた。
(くそっ!)
それは、タイミングの悪いことに、炎弾が近付いてくるタイミングだった。
ゆらゆらと歪んでいく視界では、回避の成功率は低いだろう。
(十華剣式、玖の型、紅葉紅蓮の舞い!!)
俺は目を閉じ、足に力をこめ、刀を振るった。
一瞬で読み取った記憶を頼りに、全てを切り裂く大技。これにより、目をつぶっていても全てが斬れる。こういう使い方を想定して作った技ではないのだが、お陰で助かった。
目を開ければ、火の粉が空中を舞い、こちらに向かってくる炎弾は一つもなかった。




