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「くそっ! これは思った以上にやばすぎる!!」
連続で迫り来る炎弾を動き回って回避する優真は、誰に言うでもなく、そう叫ぶ。
真紅の炎に包まれた優雅の攻撃は、先程までとは威力も速さも段違いなものになっていた。
軽くかすっても死にかねないような攻撃。
そんな威力の炎弾が何発も飛んでくるその光景は、まるで流星群のようにも見えた。
(……跳ね返すか? いや無理だな。あの熱量じゃ近付いただけでも溶けそうだわ……)
そんなことを考えながら炎弾を避け続ける優真だったが、彼が苦戦する理由はそれだけではなかった。
その一つが、ここでは花鳥風月の型が使えないことだ。
元々あの技は、全ての獣人と方角を司る男神として知られる麒麟と、その眷族達が力を貸して、ようやく完成する技だ。
だが、ここは時空神の眷族エパルが造った空間。
彼らの力はここまで及ばず、十全の力を発揮出来なくなってしまった状態では、今の優雅に満足な一撃を与えるのは難しいように思えた。
(……とはいえ、このまま攻撃せずに逃げ回るのでは俺の体力が消耗するだけ……こうなりゃいっそのこと……)
そんなことを考えた優真は、優雅の方に視線を向けた。
「……やらなければ死ぬ……やっても死ぬかもしれない……でも、こんなことしてくるバカ親父には、一発ぶん殴ってやらなきゃ気がすまねぇ!」
急ブレーキをかけた優真はそう叫ぶと、優雅に向かって一直線に走り始めた。
当然の如く、優真を炎弾が襲う。
「すまん紅華、少し無茶をさせる……」
優真がそう呟くと、優真の持つ刀がプラチナ色の光を帯びる。
「十華剣式、伍の型、白桜の舞い!」
その技を放った優真は走るスピードを緩めずに炎弾を斬る。だが、それで終わりではなかった。
着地と同時に床を蹴り、次の炎弾へと向かい、同じ行動を繰り返す。
その軌跡はまるで、巨大な炎の塊をつなぐ糸のようにも見えた。
炎弾の熱で手が火傷以上の傷を負おうと優真は刀を離さなかった。
そして、優真は優雅の前に着地する。
優真と優雅の間には、もう炎弾はない。
優真は一瞬で刀を持ちかえ、刀の峰で優雅を斬った。
その瞬間、優雅の体は真っ二つになった。




