55-116
俺はただ、幸せな家庭を築き、愛する子ども達の成長を、愛する妻と共に、見守っていきたかっただけだ。
なのに……なのになんでこんな目に逢わなくてはならないのだ!!
愛する息子は目の前で殺されそうになった。
俺に優しくしてくれた仲間は、俺の手で殺してしまった。
剣の使い方を教えてくれた仲間と敵対することになり、自分の手で殺してしまった。
こんなことを望んでいた訳じゃない!!
俺は自分の人生でこんなことをしたかった訳じゃない!!
神だとかなんとかぬかす奴らに人生を滅茶苦茶にされるのが嫌で戦おうと決意したのに……何故、お前がそっちにいる……何故……お前がこっちの世界にいるんだ……。
これも全て、神と名乗る連中が仕組んだこと。
許せない。
俺の人生も、息子の人生も、滅茶苦茶にしたあいつらだけは、絶対に許さない!!
◆ ◆ ◆
優真が追撃の為に振るおうとしたその時、体を吹き飛ばす程の風圧が優真を襲った。
「うがぁあああああああ!!!」
吹き飛ばされた俺の耳にその雄叫びが聞こえた。
耳をつんざくようなその雄叫びに対して、俺は思わず目を閉じながら耳を押さえた。
そんな行動をとっても雄叫びが聞こえなくなる訳ではない。結局、雄叫びがやむまでの間、俺は身動きを封じられてしまっていた。
雄叫びがやむと、俺は恐る恐る目を開けた。そして、その光景を目にした瞬間、衝撃で声が出せなくなっていた。
さっきまで父さんの全体を隠していたもやは綺麗さっぱりなくなっていた。だが、父さんの体を神秘的な真紅の炎が包んでいた。
それは、俺にあの日見た光景をフラッシュバックさせてしまう程の衝撃を与えてきた。
だが、すぐにそれどころではなくなる。
震えた腕を見ていた目を、一瞬で前に向けなくてはならないと思った。それは恐らく、何度も行った実戦の中で培った危機察知能力が反応したからなのだろう。
だが、目を前に向けたその時には既に、手遅れ以外のなにものでもなかった。
「……しまっ!!?」
体を蹴られた。
反応しても間に合わないレベルの一撃に、呆気なく体を後方の壁に叩きつけられた。
目を離したら殺される。
今の一撃は、俺にそう思わせる程の威力をもっていた。
◆ ◆ ◆
必死に何かに祈る姿勢を見せる少女達の傍で、彼女はキューブから視線を反らし、険しい表情を見せる青年の方に声をかけた。
「のう、パルシアス。準決勝の日、お主は何故勝たなかったのじゃ?」
その質問をしたエパルに、パルシアスは頭を傾げる。
「ちょっと聞いてる意味がわからないかな。僕があそこで退くという選択をしたのは、女神様の指示があったからだよ?」
「そんなものわかりのいい奴がうちにおったかのぅ……少なくともサボり魔のお主がそういう性格じゃないことくらいお見通しじゃ!」
その言葉に、パルシアスはため息を吐いた。
「……あんな化け物……勝てる訳ないだろ……」
その言葉に、エパルは強い衝撃を受けた。
キュロスが相手でも、一言もそんなことを発したことがないあのパルシアスが、そんなことを言った。
それがどういう意味なのか、わからないエパルではなかった。
「あれは正直言ってあの男が一番持っちゃいけない能力だと思う。……いや、むしろ彼だからこそ、その能力を使いこなせるのかもしれない……」
「お……お主がそこまで評価するあやつの特殊能力とはいったいなんじゃ!」
「……噴炎之王……それはかつて、創世神の方々ですら手を焼いた存在……そんな奴の能力を引き出せるんだとしたら……いくら優真でも勝ち目はないかもしれないね……」




