55-115
優真が降り立ったその場所は、外観以上に広い場所だった。
白い箱の中にいるかのような感覚を味わいながら、優真はそこにいた人物に目を向けた。
赤黒いもやのかかった父親の姿が、優真の表情に悲壮感をもたらす。
「【剛勇之王】……俺に……父さんを助けるだけの力を貸してくれ……」
優真がその言葉を呟いた瞬間、優真の体をプラチナ色のオーラが包み込む。
そして、それを見た赤黒いもやの中に2つの赤く丸い光が灯った。
次の瞬間、二人は同時に床を蹴った。
◆ ◆ ◆
プラチナ色のオーラを放つ優真と赤黒いもやを纏った優雅の戦いはかなり激しいものだった。
もやのかかった剣のようなものを握る優雅と、鉄の女神によって与えられた神器紅華を握る優真。
力とスピードで上回っているのは、特殊能力【剛勇之王】を発動している優真だった。しかし、実戦でそれが必ずしも有利に働くとは限らない。
「十華剣式、弐の型……!?」
優真が技を放つ構えを見せる。だが、その一瞬の隙を優雅は見逃さない。
優雅はもう片方の手に握った銃を発射し、優真に技を打たせないという戦法をとっていた。
それは、未だ力の加減を調整するために多少の時間を使ってしまう優真の弱点をついた戦法に他ならない。
今の優真は確かに強かった。
最強といっても過言ではないだろう。
だからこそ、優真は相手を殺したくないという思いから力を無意識に加減するようになっていった。
全力を強制的に引き出す【剛勇之王】は、確かに【ブースト】との相性が良いのだろう。だが、優真はここまでその条件の難しさも相まって、あまり【ブースト】を使用したことがない。
その為、少しでも気を抜くと、思った通りの威力が出せなくなってしまう。
要するに、優真の弱点は特殊能力を使った実戦経験が少ないことと言えるだろう。
「やばっ!?」
危うく殺しかねない攻撃を振るうところだった優真は、ギリギリのところで刀を止めた。
しかし、暴走状態の優雅が攻撃をやめる道理などなく、優雅の死を連想させる一撃が容赦なく優真を襲う。
次の瞬間、剣と刀が交差する音が辺りに響いた。
「……一発ミスった程度で今の俺が遅れを取る訳ないじゃん……」
左の脇腹を狙われた攻撃。それを優真は、逆手に握った刀を間に入れることで防いでみせた。反射的に防がれることを予期していなかったのか、優雅の体に微かな隙が出来る。
それは、注意深く観察していなければ、隙とも思えないような一瞬の硬直。
しかし、今の優真相手に晒すには大きすぎる隙だった。
「うらっ!!」
死角から放たれた優真の鋭い蹴りが優雅の体を捉え、彼の体は呆気なく吹き飛ばされることとなった。




