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「お気に召しませんでしたか?」
「いや……ちょっと驚かされただけだ」
ユリスティナが不安そうに訊いてきたことで、俺はそう答えた。
「それは良かったです」
「ところでユリスティナもあれか? ホムラと一緒で日本の話を聞きたいのか?」
「それもすごく魅力的ですが、わたくしは別の用です」
「別の用?」
「はい! 他の世界に居たユウマ様はご存知ないかもしれませんが、わたくしの家には婚約者が相手のご家族に挨拶をせねばならないという習わしがあるのです」
「……そうなの?」
「はい! なのでわたくしも、ユウマ様のお父様にはぜひお会いしてご結婚のご報告をしませんと! ユウマ様! 絶対に連れ帰ってくださいね! じゃないとパルテマス帝国の皇女として示しがつきませんので」
笑顔でそんなことを言ってくるが、彼女は泣くのを我慢しているようにも見えた。きっと、ホムラもシルヴィも同じ気持ちなんだろう。
俺が帰ってくると信じているんじゃない。
俺が帰ってくると、そう信じたいんだ。だから、万里華も泣き崩れたのだろう。
話で聞く限り、俺の生は絶望的だ。もしも死んだ場合、父さんを外に出すことが出来ない以上、俺の遺体が戻ってくることはない。……でも、行かないでほしいと言っても、俺が止まらないということを彼女達はよくわかってる。
(……だから……なんだろうな……)
自分の頭をかきむしった優真は、ユリスティナの頭に手を乗せ、その綺麗な金髪がボサボサになるほど撫でた。
「了解した。あのバカ親父を連れて、ちゃんと皆のところに帰ってくるよ」
彼がそう言った瞬間、ユリスティナは涙をこらえるのが我慢できなくなってしまう。優真はそっと、ユリスティナを抱きしめた。
「わたくしも……わたくしももっとユウマ様のお力になりたかった……」
「なってるよ。出来ないことばっかりのユリスティナが出来ないことに1から挑戦しようとしている姿を見て、俺ももう少し頑張ろうと思えた。それは、紛れもないユリスティナのお陰だよ」
その言葉に、ユリスティナは涙を流す。
その言葉が、彼の本心からの言葉だとわかり、それがただただ嬉しかった。自分の努力を認めてもらえることがここまで嬉しいことだとは、思ってもみてなかった。
「……ユウマ様……頑張ってください!! わたくしもこれからいっぱいいっぱい頑張ります!! だから、絶対に帰ってきてくださいね!!」
そう言ったユリスティナの笑顔は、いつも以上に輝いて見えた。




