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パルシアスのその言葉で、優真は理解してしまった。
自分のやろうとしていることがどれ程無謀なことであるのかということを。
優真は一度、暴走状態のメイデンと戦ったことがある。
その時、彼はパルシアスの助けが無ければ間違いなく死んでいた。それほどまでに、暴走状態というのは危険だった。
確かに、今の優真は『王の領域』と呼ばれる特別な領域に入っている。あの時より地力も上がり、まさしく最強の二文字が相応しい実力者になっていた。
だが、相手は『神喰らい』という禁忌に手をだし、王の力も強制的に行使できる存在だということを忘れてはならない。
その二つだけでも厄介だというのに、暴走状態になれば手がつけられない。
おまけに今回はパルシアス達の手を借りることはできない。
そんな絶望的な状況の中で、優真は最強の敵と戦おうとしているのだ。
「そんなこと聞いてない!!!」
パルシアスから詳しい内容を聞いた万里華が叫ぶ。
「なんで優真がそんなことしなくちゃいけないの! この世界の危機なんでしょ!! だったら皆で協力すればいいじゃん!!」
万里華がパルシアスに対して必死に訴えかける。
「なんでハナちゃんもメイデンちゃんも黙ってるのよ!! 優真が死んじゃうかもしれないんだよ!!」
黙って聞いていた二人の方に訴えかけるが、二人は辛そうな表情を見せるだけで、何も喋らない。
そして万里華は、涙で濡れた顔を優真に向けた。
「なんで……なんでよ……。優真が言ったんじゃん! 私に居なくなるなって……勝手に消えるなって……優真が言ったんじゃない!!! なのになんで優真が勝手に消えようとしてるのよ!!!」
そう言うと、彼女は泣き崩れた。
「……万里華……」
優真は万里華の元に行こうとした瞬間、足元に抱きつかれるような衝撃を受けた。
優真が足元を見ると、そこには笑顔でこちらを見上げるシェスカがいた。
「ねぇねぇお兄ちゃん! お仕事終わった? シェスカと遊べる?」
その言葉を聞いた瞬間、優真はなんて答えればいいのかわからなくなった。
子どもとは笑顔で接しろと大学で習った筈なのに、笑顔を繕うことが困難になるほど、その質問はきついものだった。
優真がしゃがむ。
「……ごめん……ごめん…………ごめん…………」
顔を腕に埋めながら、何度もその言葉を連呼する優真。シェスカが心配そうに「大丈夫?」と聞いてくるが、それにも優真は、ごめんと返すことしか出来なかった。
そんな優真に声がかけられた。




