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優真はその父親と思われる存在に手を焼いていた。
だが、それでも表情には笑みが刻まれていた。
「……あんなこと言われて出来ませんでしたじゃいかんよな!!」
優真の拳がもやのかかった存在を後方に吹き飛ばす。
「……さて、女神様のお陰で他の眷族達が邪魔をしなくなってくれたのはありがたいが、問題点はあと一つ……」
優真はそう言いながら、柵を突き破ってプールサイドに吹っ飛んでいったそいつに視線を向けた。
優真にとって最後の問題点は、ここが子どもを司る女神の本拠であるということだ。
理性の残っていたアルゼンや父親であれば何の問題もない。だが、敵は理性のとんだ暴走状態の父。
いつターゲットを変えるかわからないうえに、思考がまったく読めない。
最初の攻撃を偶然防げたのだって、直前にクレエラが食い殺される映像が脳裏を過ったからに過ぎない。
ここから出られれば捕まえるのは至難の技。だが、弱点の多いここで戦うのも危険すぎる。
「……さて……どうするかね……」
「じゃあ僕が手を貸したげよっか?」
その言葉は突然、優真の耳元に囁かれた。
気配を感じることすらできなかったせいか、優真はびくつき、慌てて振り返る。
そこに立っていたのは、ここにいるはずのない青年だった。
「!!? パルシアス!!?」
「やぁユウマ、久しぶり~」
「いや、久しぶりってか……お前なんで生きて……」
「酷いな~親友に向かってそんなこと言うなんて~」
「いや、別にお前と親友になった覚えはないんだけど……」
「ヒドッ!? せっかく泣いてるユウマの為に帰ってきたっていうのに……!」
パルシアスと優真が会話をしていると、パルシアスの体を優雅の拳が捉えた。
しかし、そこで不思議な現象が起こった。
もやのかかった優雅の拳に殴り飛ばされる。そんな未来を見た優真の目がパルシアスの殴り飛ばされた場所に向けられる。
しかし、そこには誰も居なかった。
何故ならパルシアスは、一切の傷も負わずに優雅の背後に回っていたのだから。
「久しぶりの再会なんだから邪魔しないでほしいんだけど」
そう言ったパルシアスの手には巨大な鎌が握られていた。
「神器アダマス。その身に秘められし力を解放せよ」
大鎌を振り回すパルシアスの詠唱が彼の神器を輝かせていく。
優真がそれに気付いた時には、既に手遅れだった。
「時空切断」
その言葉と共に、パルシアスは手に持った大鎌でもやのかかった優雅を斬った。




