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優真達が目の前で戦闘を行っているさなか、子どもを司る女神は迷っていた。
彼女は防戦一方の優真を見て、どうするのが正しいのかわからなくなっていた。
ここにいる父親に頼めば、おそらく優真達3人を助けることはできる。だが、このまま優雅の攻撃を彼一人に背負わせながら他の眷族達の攻撃を他の二人で防いだ場合、優真達の敗北は時間の問題だろう。
彼の命を考えて動くのなら、力を貸してもらった方が絶対にいい。でも、どうしても動けなかった。
理由は簡単だ。
彼女は優真に嫌われたくないのだ。
わかっている。
ここで優真が死ねば、それ以前の問題になることも。
わかっている。
この迷っている1分1秒が優真の命を危険にさらしていることも。
それでも、彼女は選択できなかった。
生きていようがいまいが、この戦いが終われば彼とはもう二度と会うことはないだろう。
それでも、彼にだけは、嫌われたくなかった。
「良いのか?」
背後から聞こえた言葉に子どもを司る女神が振り向く。
そこに立っていたのは、創造神と呼ばれる彼女の父親だった。
「わしがあの者を助けねば、あの者は死ぬぞ?」
突きつけられる事実に、彼女の心は押し潰されてしまいそうになる。
(……そうだよ……例え優真君に嫌われてようと……優真君が生きていなかったらなんの意味も無いじゃないか……)
そして、彼女が創造神に向かって口を開いたその瞬間、彼女の耳に声が届いた。
「俺を信じろ!!!!」
その言葉を聞いた瞬間、子どもを司る女神は優真の方を見た。相変わらず苦戦している様子だったが、それを見て、彼女は口元に笑みを見せ、創造神に向かって手を広げ始めた。
「……なんのつもりだ?」
創造神の威圧的な言葉。しかし、子どもを司る女神は怯むどころか堂々と父の目を見た。
「私は彼を信じます!! 例えお父様がなんと言おうと、お母様がなんて言おうと、麒麟様や、時空神様や、他の皆がなんて言おうと、私は彼を絶対に信じます!!! それが……私の……神としての最後の仕事です!!!!」
その言葉を聞いた瞬間、創造神は一瞬驚いたような顔を見せる。そして、ほんの少しだけ、小さく笑った。
すぐに彼は振り返る。
そこにいたのは、イルジョネアに肩を貸されて連れてこられたクレエラだった。
「撤退だ。全員を下がらせろ」
その威圧的な言葉に、イルジョネアとクレエラはかしずき、他の眷族に撤退の命令を伝え始めた。




