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それは、今までに感じたことがない程のオーラだった。
「……父……さん?」
そのオーラに、他の者達が萎縮しているなか、何かを感じ取った優真が動く。
その赤と黒が混ざったようなもやを纏った人間の首が動き、放心状態のクレエラをその赤く光る目が捉える。
次の瞬間、もやを纏った人間が彼女に不可視のスピードで襲いかかった。
この場にいる全員が反応できないスピードで動いた彼は、目に映る少女を殺す為、もやのかかった腕を振るった。
だが、直前で彼女の前に一人の男性が現れ、その攻撃を真っ正面から受けてみせた。
「優真君!!?」
その状況に逸早く気付いた子どもを司る女神が、攻撃を受けた者の名を呼んだ。
「なんで? 私は貴方を殺そうとーー」
「てめぇの為じゃねぇ!! 俺はこれ以上父さんに罪を犯してもらいたくねぇだけだ!! わかったらさっさとどっかに行きやがれ!!!」
優真の鬼気迫る迫力に気圧されるも、クレエラは動けない。
そんな彼女の腰に緑色の蔓が巻き付いた。
その蔓は彼女を持ち上げ、銀色の茨に苦戦している眷族達の元に放り投げた。
「これでいいの、ユウタン?」
「助かる!! とりあえず父さんは俺がどうにかするから! 連中に邪魔させるな!!」
「わ……わかった……でも……」
ハナは優真に不安そうな眼差しを向ける。
それも仕方ないと言えた。今の優真は全力だった。特殊能力【ブースト】と【剛勇之王】の効果で全能力値を10000倍にまで引き上げた今の状態はまさしく、最強と言えた。だが、優真は押されていた。
パンチのみという単調な攻撃ではあったが、連戦中の優真には防ぐので手一杯の代物だった。
「いいから早く!! それからメイデンさん!」
近くで銀の茨を操っていたメイデンの顔が、その声一つで優真の方に向けられた。
「……なに?」
そして、優真は言うべきか迷っていた質問を彼女に向けて発した。
「……あれは……あの時のメイデンさんと同じ状態なのか?」
パンチを受け止めた優真が横目で彼女を見ると、彼女は微かながら、表情に動揺の色を見せていた。
「……うん……でも私より最悪な状態……」
その言葉に優真は歯噛みした。




