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アルゼンの持つもう一つの特殊能力、それこそが破壊を司る男神をも殺した際に切り札となった【死の交換】であった。
これは致死量の攻撃によるダメージを自分、または他者が受ける際に、位置を変更できる能力である。
アルゼンは破壊神との戦いの際に、この特殊能力を使用し、バラドゥーマの全身全霊を込めた一撃を自分に打つよう指示をだし、破壊神の裏をかいて勝利した。
そして、今回もそれを使用した。
優真が攻撃される直前に、自分と優真の位置を交換したのだ。
優雅を抱き起こしていた優真と位置を交換したことで、アルゼンの体は優雅に倒れこむ。
「アルゼン!!」
「案ずるな。次はお前だ……!?」
優雅に対してそう言ったクレエラは次の瞬間、背筋がゾッとするような恐怖を感じ取った。
彼女の生存本能は、優雅を殺すことよりもその場を離れることを優先させる。
そんなことには一切気付かない優雅は、目を閉じたアルゼンの名を何度も呼んでいた。
そして、その懸命な呼び掛けが通じたのか、アルゼンはうっすらだが目を開いた。
「……うるさいなぁ……眠れないじゃないか……」
今まで以上に弱々しい声で彼はそう言った。
いくら瀕死の状態だったとはいえ、彼は死神の力を喰らった眷族だ。どんなことがあっても、彼の中に眠るその力が彼を生かしてしまう。だからこそ、死神はアルゼンに殺してもらうしかなかった。だが、それを信じられなくなるほど彼は今にも死にそうな状態だった。
「あの剣……多分特殊能力の類いを封じ込める能力があるのかもね……」
自分の身にかかった異常を理解したアルゼンの言葉に、優雅の表情が焦りを見せる。
「ふざけるな!! お前まで俺の元から居なくなるって言うのか!!」
涙を流しながらまくし立てる優雅の表情を見て、アルゼンは安らかな表情を見せた。
「……大丈夫……ちょっと二人の家族に会ってくるだけだから……またいつか会えるよ……いや……」
そこまで言った頃には、彼の体はほとんどが光の粒子と化していた。そして、彼は一筋の涙を流して、小さく笑う。
「……やっぱり君とはもう会いたくないかな……だから、二度と私に顔を見せにくるなよ……」
その言葉を残し、アルゼンは完全に光の粒子となって、この世から消えた。
◆ ◆ ◆
慌てて優雅の傍を離れたクレエラは、その強烈な殺気を放っていた存在に視線を向ける。
そこには、どす黒い殺気を放ち続ける優真の姿があった。
あと少し判断が遅れていれば間違いなく死んでいたことだろう。そう思える程の殺気を彼は放っていた。
「俺の家族に手を出すな」
低くよく通る声で彼がそう言った瞬間、クレエラの身体は小刻みに震え始めた。




