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「!!?」
神をも殺す銃弾を前に、子どもを司る女神は動けなかった。
だが、その銃弾は黒い背中に遮られた。
「……なんで……?」
感謝や心配の言葉よりまっ先にそれが出てしまう程、それは予想外すぎる人物だった。
何故なら彼女を庇ったのは、彼女の命を奪いに来た存在、死神の力を喰らったアルゼンという敵だったからだ。
アルゼンは倒れこみ、子どもを司る女神に支えられる。
「はは……無事で良かった……」
「何故だ、アルゼン!!」
儚く微笑むアルゼンに怒声が向けられる。
「お前が神を皆殺しにすると言ったんだぞ!! そんなお前が何故庇う!!」
アルゼンは喋らない。だが、彼の両の目は優雅に向けられたまま固定されていた。
「……まさか……俺か?」
そして、優雅がなにかを察したかのように、表情を絶望の色に染めると同時に、彼は口を開いた。
「……私だってなにも、全てを恨んでいる訳じゃない。すぐに帰ると約束したにもかかわらず妹のもとに帰ることの出来なかった私や、私を実の息子のように育ててくれた死神様を追い込んだこの世界は確かに憎い。……ですが、貴方には恩義すら感じているんです。だから、貴方にこれ以上そんな表情はしてもらいたくなかった……」
そう言った直後、彼は咳き込み、血を吐いた。
慌てて優雅が彼に近付こうとするが、アルゼンの目を見た瞬間、その足を止めた。
それを満足気に見たアルゼンはゆっくりと口を開いた。
「私に出来る最後の忠告です。この女神を殺せば貴方の息子は死ぬ。それが王というものです」
「……そんな……」
膝をついた優雅の目には涙が浮かんでいた。
そんな優雅に視線を向けていたアルゼンは優真に視線を移した。
「……君に言わなくちゃいけないことがある」
その言葉で、優真もアルゼンの方に視線を向けた。
「……君の父親が神を殺そうと決めた理由は、共に過ごした仲間を殺されたからだけじゃない。むしろその時は、誘っても全然乗り気じゃなかった。誰とも居たくない。そんなことを言って一人になろうとしていた彼をこの戦いに巻き込んだのはこの私なんだ……」
「……どういうことですか?」
「……原因は君なんだよ……」
「……え?」
「……やめろ!! その話はーー」
その予想外な返答に、優真と優雅はそれぞれ異なる反応を見せた。だが、そんな二人の様子を見ても、アルゼンは言うのをやめなかった。
「君が子どもの頃に起きたあの事件は、炎を司る男神の手によるものだったんだ……」




