55-97
優真は一瞬、ハルマハラという名前に反応するが、老人という言葉から別人だと判断した。
何故なら、父の話が本当であれば、それは十年程前の出来事だ。ハルマハラの年齢が六十歳だと聞いていた優真にとって、父の語るハルマハラは同姓同名の別人だとしか思えなかった。
◆ ◆ ◆
彼らは装備のない俺を気遣ってくれたのか、近くの町まで送ってくれた。
道中色んな話を聞いたが、そのどれもが、俺にとっては信じられないような話だった。
だが、なんとか町に着いたものの、一つの問題点があった。
俺には金がなかった。
あの日はキャッチボールをしていたから装備品の中にも金目のものはなく、強いてあげるなら千円札がある程度……当然それは使えなかったがな……。
だが、そんな俺を見かねた彼らは、俺に仲間にならないかと聞いてきた。
何のツテも知識もない俺にとってそれは、救いの手以外の何物でもなかった。
それから数ヵ月、俺は仲間に鍛えられながら、クエストをこなしていった。当然、チームとして過ごせば、だいたいの関係はわかる。
ケインとシルクが互いに好き同士でありながら、あと一歩が踏み出せずにいることや、ハルマハラがそんな二人を陰ながら応援していることも、なんとなくわかった。
そんなある日のことだった。
ケインが夜遅くに俺の泊まっている部屋に来て、彼女とのことを相談しに来たんだ。
勇気が出ないとか、フラれるのが怖いとか、そんな理由だった。だから、俺は彼に言った。
お前がプロポーズするのもしないのもお前の自由だ。他人が決めることじゃない。だが、これだけは言っておこう。人はいつ死ぬかわからない。死んだ後にいくら後悔しようが、過去を変えることなんて出来ない。だから、生きている内に消しておける後悔だっていうんなら、俺は消しといた方がいいと思う。
そんな俺の言葉が後押しになってくれたのか、彼は頑張ると言い残し、数日後、彼らは結婚することになった。
……だが、そんな結末は来なかった。
◆ ◆ ◆
父さんの表情が一瞬で激変した。
先程までの優しそうな雰囲気は完全になくなり、憎悪の炎を燃やしているかのような表情を見せた。
そして、低く通る声で続きを述べた。
「……あの日、俺はいつもより遅く起きてしまった。宿で寝ていたはずだが、そこはいつも行く森の中だった。ところどころ焼け跡が残っていて…………俺の視界に二人の姿が映った。……焼け焦げた姿で……」
父さんが涙を流しながら告げたその言葉に俺と女神様は息を飲んでしまう。
「……訳がわからなかった……嘘だと自分に言い聞かせながら近付くと、彼らの左指には、俺がプレゼントにどうかと教えた婚約指輪がはまってた。……それが……あいつらの死体だと裏付ける証拠になったんだ……」
父さんの流す涙の量が増え、ついには膝をつき、持っていた銃を落とす。
その銃に、父さんの涙がポタポタと落ちていく。
俺がそんな父さんに近付こうとした次の瞬間、父さんが怒りの表情を見せた。
「そんな時だ!!!! あいつが……あのクソ野郎が!!! 俺の耳元で忌々しい高笑いを始めやがったんだ!!!!」
その怒りの表情に俺が声をかけられないでいると、父さんはその表情をこちらに向けた。
「優真!! ……俺はあいつの眷族だったらしい。この世界に降り立ったその日からずっとずっとずっとずっとず~っと眷族だったんだそうだ! だから、俺の体はあいつの意思で勝手に動く」
その言葉の意味を、俺はようやく理解した。理解してしまった。
「あいつは俺のこの! ……この体を使って二人を殺したんだ!!」




