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この世界に来た俺は正直なにがなんだかわからなかった。
燃え盛る炎も、意識を奪おうと襲いかかってくる煙も、全てがなくなったその空間で、俺は一人の男に会った。
そいつが俺の主神、炎を司る男神だった。
彼は困惑する俺に色々なことを教えてくれた。
ここが地球ではない別の世界であるということ。
俺は死に、あっちの世界に行くことは出来ないということ。
そして最後に、多少の怪我はあるが、愛する息子が無事だったということ。
確かに、死んだことも、もう家族に会えないという事実も辛かったさ……だが、それ以上に優真が生きていると聞けただけで俺は……ただただ嬉しかった。
◆ ◆ ◆
「……父さん……」
銃口を下に向けた優雅は、遠い過去を見るかのように遠くを見ていた。
そんな優雅の姿を見て、優真は攻撃の意思を無くし、彼の話に耳を傾ける。
「次に目が覚めた時、俺が居たのはよくわからない森の中だった。どこに行けばいいのか、どうしたらいいのかもわからない。そんな状況で会ったのがこの銃の持ち主、ケインという名の青年だった……」
◆ ◆ ◆
武装したひょろっちい青年というのが第一印象だったが、彼は俺に声をかけてきてくれた。
よくわからないんだが、異世界転生の特典ってやつで俺には人の言葉が日本語にされるらしくて、会話に関しては何の問題もなかった。
だが、俺の話を聞いた彼は、俺が混乱して支離滅裂な話をしているんだと思ったらしい。
そりゃそうだ。俺だって何も知らずに自分の話を今会ったばかりの人間から聞かされたら嘘だって思うからな。だから、俺は彼の対応を見て、俺に起こったことを人に話すのはやめた。
幸いにも彼は優しい青年だった。お陰で俺の話が他人に広められることはなかった。
俺の生まれや職業を訊いてきたが、結局何も伝わらなかった。そんなタイミングで彼の仲間が来た。
矢筒を背負い、弓を手に持った20代前半くらいの女性と、佇まいが綺麗な白髪の老人。
女性の方がシルク、老人の方はハルマハラという名前だった。
当然二人も俺の正体について尋ねてきたが、ケインが記憶喪失ということにしてくれた。
その対応は、俺の話が信じてもらえないという考えからきているのだろうということは早々にわかった。だから、俺はその話に合わせた。




