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条件が揃わないと最強になれない男は、保育士になりたかった!  作者: 鉄火市
55章:実習生、大切な存在を護るために戦う
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 優雅(炎帝)と優真は、園庭の芝生に立ち、互いに向き合う。

 それを見守る子どもを司る女神とアルゼン。

 次の瞬間にでも、激しい戦いが始まりかねない。そんな中、優雅が口を開いた。

「この場所……懐かしいな……お前を入れた保育園だったな」

 その言葉に、優真は黙って小さく頷く。

「あの頃の優真はこんなに小さくてな~ある日、目に入れても痛くないんじゃないかと思って顔に近付けたら鼻っ柱をおもいっきり蹴られたんだよ~……いや~痛いのなんのって~」

 優雅は笑う。だが、彼の様子を見れば、優真にはわかる。

 父は、悲しそうな表情をしていた。とても辛そうに、楽しい思い出を語っていた。

「初めての運動会は母さんと一緒に行ったんだぞ? 新しくビデオカメラ買って、優真の勇姿を撮ろうって張り切ってたんだ……そしたら母さんがうっかり充電し忘れててな……後で見返そうとして開いたら……ほとんど何も映ってなかったんだよ……」

 優真は目を伏せたまま、歯を軋らせた。その姿を見ていたにもかかわらず、優雅は話を続ける。

「……初めて描いてくれた家族の絵には、父さんと母さんと由美がいて……親バカな母さんはそれを見て、将来は画家になれるってはしゃいでたな~……」

「……でだよ……」

 そう呟いた優真は顔を伏せる。そして、彼の足下に滴が落ちる。

「優真の誕生日はさ、義兄さんが優真にお馬さんごっこさせてやるって言って、乗ってる優真も本当に楽しそうで……でも、その時に義兄さんが腰やってさ……あの時は笑ったのなんのって……」

「……なんでなんだよ!」

 優真は優雅に向かって怒鳴った。

 彼の目からは止まることのない涙が溢れ続けている。

「なんで父さんなんだ! なんで父さんと敵対しないといけないんだ!! 父さんは俺の憧れで……命の恩人で……本当に大好きだったのに……それなのにどうしてさ!!」

「…………」

「俺のことも……母さんのことも……あっちでのことも全部覚えてるんだろ? だったらーー」

「優真」

 優雅の言葉が優真の言葉を遮り、少しの間ができる。

 そして、優雅はホルスターから一丁の銃を取り出した。

「……記憶が……思い出があることがいいことばかりとは限らない。さっきの思い出のように、忘れられない思い出というのは、俺の中にたくさんある。その一つ一つで、俺という人間は出来ている。……だからな、優真……」

 優雅はゆっくりと銃口を、優真に向けた。

「知りたいなら、本気でかかってこい」

 そして、1発の銃声が、辺りに鳴り響いた。


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