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条件が揃わないと最強になれない男は、保育士になりたかった!  作者: 鉄火市
55章:実習生、大切な存在を護るために戦う
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 互いのオーラが神々しく光り輝き、二人は右腕に全身全霊の力を込め始める。

「【時間之王(クロノス)】!!」

「【破滅之王(アトラス)】!!」

 互いに己の特殊能力の名を叫ぶ。

 それが合図になったかのように、二人の纏う光が、更に1段階力を増していく。

 そして、二人は互いの目を確認し、同時に地を蹴った。


 互いの拳がぶつかり合う。

 力は拮抗し、発生する衝撃波が、彼らの肌を傷つけて赤い血をそこから滴らせる。

 だが、受ければただではすまないことがわかっているというのに、二人の表情には笑みが刻まれていた。

 そして、永遠に続くかと思われたその拮抗した戦いは、長くは続かなかった。

「やっぱりお前は強いよ、バラドゥーマ……」

 涙を流しながら、それでも笑みを崩さないパルシアスは彼の身体を見て、そう言った。

 限界だったバラドゥーマの身体は、背中や足が、徐々に光の粒子へと変化し、この空間に散り始めていた。

 口元から血を流し、彼は一瞬、苦悶に満ちたような表情を見せる。だが、バラドゥーマはすぐに、辛そうな笑みをパルシアスへと向けた。

「……あぁくそ……最後まで勝てなかったか……でも、キュロスを倒した時よりすっきりしてるのはなんでだろうな……」

 そして、バラドゥーマの目から大粒の涙が流れた瞬間、彼は目をつぶり、言った。

「最後の相手が……お前でよかった……」

 その言葉を告げると共に流れ落ちた涙は、足下に落ちた瞬間、光の粒子となって、消えた。


 ◆ ◆ ◆


 そこは何もない空間だった。

 暗く、自分以外の気配を感じない空間。そこに、バラドゥーマは立っていた。

 何かするでもなく、ただ、立っていた。


(……これが……あの世ってやつなのかね……)

 苦笑しながらそんなことを思うバラドゥーマだったが、自分しかいないその空間が、急に辛く感じた。

 そんな時だった。

「あ~あ、また負けちまったのかい?」

「今回こそはいけると思っていたのですが、やはりパルシアス殿は強かったですね」

 その聞き覚えのある声に、バラドゥーマは咄嗟に振り返った。

 まだ数日しか経っていないのにもう何年も会っていないように思えてならない。

 いるはずがない。いや、居る方が自然なのかもしれない。

 バラドゥーマが振り返るとそこには、数日前に殺してしまったユウキとプラウドが立っていた。

「なんだ? そんな死人でも見たような顔して~」

「いや、ユウキ殿。我々は一度死んでいるのですから驚かれるのも不思議ではないかと」

「あっは、そうだったな~! いや~皆がこっちに居るもんだから自分が死んでいたことを忘れてたよ~! ほら、ダンナもそんなところで突っ立ってないで皆のところ行くぞ! ……ダンナ?」

 ユウキとプラウドが、バラドゥーマを皆のもとへ連れていこうと歩き始めるが、バラドゥーマは顔を伏せて動いていなかった。

「俺は……行けない……」

 その言葉に、二人は体ごと彼に向けた。

「俺はお前達を殺したんだ! いったいどんな面で会えってんだ!!」

 その言葉を聞いた瞬間、ユウキがおもむろに頭をかきながらため息を吐いた。

「はぁ……しゃあねぇな~」

 そんなことを言ったユウキは、ずかずかとバラドゥーマに近付き、そして、バラドゥーマの左の頬をおもいっきり殴った。

 その威力に尻餅をついたバラドゥーマは、殴られた頬を押さえてユウキを見上げた。

「はい、これで私のぶんはチャラにしてやるよ。おら、さっさと行くぞ!」

 そう言うと彼女は、尻餅をついたままのバラドゥーマの左腕を掴んでバラドゥーマを引きずり始めた。

「言っとくが、私らはダンナを恨んじゃいないよ。なにせダンナは私らと正面から戦って負かしていったんだ。むしろ、そんなダンナに勝てなかった私らが不甲斐なかったってだけさ。私らがダンナを止められるくらい強ければ……あんなことにはならんかった。破壊神様も同じようなことを言ってた。むしろ、自分を越えたダンナの成長を感じて嬉しそうにしていたくらいだな」

 そんなことを笑いながら言ってくる彼女の言葉を、バラドゥーマは黙って聞いていた。

「……私らがバカだったんだ。ダンナならきっとやれるって信じるとかなんとかぬかしておいて、ダンナ一人に重荷を背負わせてた。破壊神様の眷族筆頭としての務めも、創世神の眷族筆頭という重圧も、全部ダンナならやれるって思ってた。だから、今回のことは私ら全員の責任って訳だ」

 そう言うと、彼女はバラドゥーマの腕から手を離した。

「自分が許せないってんなら全員呼ぶから全員に1発ずつ殴られな! そんで終わったら反省会だ! なにが良くてなにが悪かったか、今度は皆で考えてやるから……帰ってこいよ、バラドゥーマ」

 その言葉を聞いた瞬間、バラドゥーマの目から涙が溢れてきた。そして、バラドゥーマは震える声で、訊いた。

「俺を許すっていうのか? あんなことをした俺を?」

「許すもなにも怒ってないって言ってんだろ? ここはいいぞ? 特殊能力がなくなったから皆目を見て話しかけてくれるし、酒や肴が無限に出てくるから毎日が楽しいし、皆が居てくれる。何の不満もないと言っても過言じゃ……いや、やっぱり一つだけあったわ」

 そう言った瞬間、ユウキはバラドゥーマを優しく抱擁した。

「やっぱりダンナが居ないとつまんねぇよ。ダンナが居ねぇと、全員じゃねぇんだよ……」

 そう言って涙を流す彼女を見たバラドゥーマは、心の底から込み上げてくるものを、理性で押さえつけることが出来なくなっていた。

「……すまなかった……もっと早くお前達が居ることのありがたみに気付けていれば……もっとお前達のことをちゃんと見ていれば……すまない…………すまない……!!」

 彼は何度も謝る。

 泣きながら、何度も何度も彼は謝った。

 そんな彼をユウキとプラウドの二人は、目に涙を溜めながら、優しく受け入れた。


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