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なんで……なんでなんだよ!
王が神を失ったら死ぬ……?
それじゃあ俺は……何の為にあいつらを殺したっていうんだよ……!!
俺はただ……パルシアスや……キュロスに勝てるくらいの強さが欲しかっただけだ!
……どんなに頑張っても辿り着けない強さをあっさり手に入れたあの男が羨ましかっただけなんだよ!
それなのに……俺がこの力を手に入れたら死ぬってんなら……俺のやったことにいったい何の意味があったってんだよ……。
「僕は君のことが結構好きだったんだよ?」
絶望にうちひしがれるバラドゥーマの耳にそんな告白が届く。
「どんなに負けても、どんなにバカにされても、いつもひたすら前を向いて精進し続ける君の強さに憧れすら抱いたこともある。でも、それは僕だけじゃない。君の仲間達だってそうだったんじゃないかな?」
「…………え?」
「君の仲間達は誰一人、君が人間だから負けたとか、君が弱いから負けたとか言ってなかったでしょ? 彼らは、きっといつか君が僕やキュロスを倒して1位の座を取ってきてくれるって信じていたはずだ。どんなに負けても、自分の弱さを受け入れ、それを鍛える為にひたすら邁進してきた君の姿を尊敬の眼差しで見ていたはずだ」
その言葉に、バラドゥーマは心当たりがあった。
どんなに負けても、彼らはいつも、次は勝てると慰めてくれた。どんなに情けない姿を見せても、決して俺のことを責めるような真似はしなかった。
自分の限界を越える為に行った修行で倒れても、起きれば隣にはユウキやプラウド、他の家族達がいた。
大きな壁にぶつかれば、その壁をぶち壊す為の手伝いをしてくれた。
今思えば、他にも色々と心当たりがある。
家族が笑い、中心で破壊神様が声を大にして笑い、自分も笑う。
彼らが傍に居てくれれば、自分はいつか、あの二人に勝てる。
そう……思っていた。
「確かに君を人間だとバカにする眷族もいた! 負け惜しみで君を人間だと貶す者もいた。でもさ、君をよく知っている奴ほど君を認めていたじゃないか! なのになんで!」
悔しそうに歪む表情を見せたバラドゥーマにそう言うパルシアスの表情は、必死そのものだった。
相反する性格でありながら、共に創世神の眷族筆頭として、パルシアスはバラドゥーマという男を認めていた。
危険すぎることもあり、特殊能力を制限されてきたバラドゥーマ。それでもなお、自分の敗北を受け止め、次に備えて心身を鍛え続けてきた彼を、パルシアスは一人の眷族として認めていた。
そんな男を敵として死なせたくなんてなかった。
破壊神と、その眷族達を殺して力を得た人間として、死なせたくなんてなかった。
だが、その方法はパルシアスにもわからない。どうすればそんな未来を回避できるのかが、わからなかった。
よりよい未来へと導く者。そんな意味が込められた先導者という異名。
その異名が今だけは、とても重苦しいものに感じた。
そして、どうすればいいのか悩むパルシアスの前で、バラドゥーマは身体を起こし始めた。




