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バラドゥーマが受けた能力は、パルシアスと時空神がひた隠しにしていた能力だった。
これは、パルシアスの目を見た相手の身体能力を遅くしたり、速くしたりと自由自在に出来る能力である。この能力は知覚することが出来ないため、例え行使したとしても、相手に気付かれることはない。
要するに、パルシアスの目を見た時点で、バラドゥーマは彼の術中にはまったということに他ならない。
再び遅くなったバラドゥーマを見て、パルシアスは勝利を確信し、重い一撃を彼に向けて放とうとした。
次の瞬間、パルシアスは衝撃の光景を見る。
パルシアスの体が鮮血を撒き散らしながら倒れる。
そんな凄惨な光景が彼の脳裏に流れ、パルシアスは急いでバックステップを取った。
だが、その場所は既にバラドゥーマが張り巡らせたクモの巣の中だった。
パルシアスの右腕が破裂音を伴い、彼の体から離れて床を転がる。
パルシアスの表情に苦悶の色が見え、右腕の付け根を押さえた左手の指の間から赤い液体が溢れて、床に落ちていく。
この時の彼に、自分の特殊能力を制御する余裕はなかった。
バラドゥーマの拘束が解かれ、彼の笑い声が辺りに響く。パルシアスはそれを、辛そうな表情で見ることしか出来なかった。
「お前は毎度毎度甘過ぎなんだよ!! 俺がお前に何百回負けたと思ってんだ? お前の戦い方、お前の性格、あらゆる行動を想定して戦ってんだ! 何の策もなくばか正直に突っ込む訳ねぇだろうが!!」
その言葉を聞きながら、パルシアスは青ざめた表情で自分の腕に負った傷を時戻しでなかったことにしていく。
バラドゥーマの特殊能力【破滅之王】は、望むもの全てを破壊することが出来る特殊能力である。
手で触れるという条件さえ満たせば、生き物だろうと、空気だろうと、空間であろうと、神であろうと、全て壊すことが出来る。
また、空間を壊すことで、元に戻そうとする空間の力が作用し、高濃度のエネルギーを生み出すことが出来る。例え壊さずとも、ひびさえ入れれば、触れるだけで攻撃も防御も全て壊してしまう罠として活用することが出来る。
当然その罠は彼以外に見ることができない。
数分も経てばパルシアスの腕は元通りとなっていた。機能を確かめるために彼は、拳を握ったり開いたりし始める。思った以上に治りが遅いのは、力の乱用が原因で間違いないだろうという考えに至ったパルシアスは、早期決着の必要性を見いだしていた。
「……これでよし……」
そう呟くと、パルシアスは勝ち誇った表情をやめないバラドゥーマに視線を向ける。
「……追い打ちしなくてよかったのかい?」
「必要ない。お前が治療中の間に、この空間の至るところにさっきのやつを設置した。不用意に動けば、お前は勝手に死ぬのさ。……それに……」
そう言ったバラドゥーマが手を前に構える。
自分の空間に異変を感じながら、パルシアスは目の前で起こっている現象に歯噛みした。
それは、キュロスを気絶させた先程の高濃度のエネルギー弾と同等以上のエネルギーの塊だった。
そして、バラドゥーマが続きの言葉を紡いだ。
「避けなくても死ぬからな」




