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その日から私は、死神の眷族として生活することになっていった。
死神という男は、孤独な男だった。
天使もいない。眷族もいない。信仰者もいない。
死んだ者の魂を扱う仕事を創世神達から任じられた下級の神。それが、死神という存在だった。
数千年もの間、たった一人で死にゆく者の魂を導き続け、争いというものを人一倍嫌う。
彼の仕事を引き継いでようやくわかった。……彼の選択の意味が。
死神の眷族として仕事をやっていくうちに、わかったことがある。
世界は『死』という概念で成り立っているのだと。
戦争で死に、病気で死に、食う為に殺す。
金を稼ぐ為に殺し、誰かを守る為に殺す。
そこに、神も、眷族も、人も、動物も、モンスターも関係ない。
殺したら、死ぬ。死んだら、死ぬ。
そこに違いなんてなかった。
私は、眷族になる際、彼の言葉を魅力的に感じたからこそ、彼の眷族になった。それは、『神々の余興』で優勝すれば、メリアを生き返らせることができるというものだった。
強くなれば、また、彼女と共に幸せな生活を送ることができる。そう思っていた。だが、現実はそこまで甘くなかった。
どんなに強くなろうと、どんなに鍛えようと、関係ない。
……私には参加資格がなかった。
私には、共に戦う仲間が居なかった。
それに責任を感じた神が、私に言った。
「お前はもう……一人でやっていける……」
その言葉の真意が、私にはわからなかった。
だが、その意味がわかった時には既に……全てが手遅れだった。
私は彼を尊敬していた。
私は彼を慕っていた。
私は彼の力になりたいと思っていた。
私は……彼と過ごす生活に、苦なんて感じていなかった。
私は……彼を喰いたいなんて…………望んではいなかった……。
彼が、私の胸に手を置いた。
その意味不明な行動に首を傾げていると、急に胸が苦しくなった。息がまともに出来なくなるほどの痛み。動悸が速くなり、何かが流れ込んでくる。
その中に、彼の意思が詰め込まれていた。
彼は苦痛に感じていた。
人や生物が多く死んでいく戦争という存在を。
彼は苦痛に感じていた。
自分に付き従う者が一人しかいないという事実を他の神々に嘲笑われることが。
彼は苦痛に感じていた。
自分を慕う我が子の願いを叶えてあげられないことに。
だから彼は、その身に宿った力の全てを私に託し、この世界から消えた。
最後に彼は言った。
「どうせ僕が死んだところで、きっと他の神々は気付かないだろう。全ての神々が出席しなくてはならない余興後の式典……それがタイムリミットだ。君がこの力をどう使うか……それを、僕は君の妹と一緒に見るとしよう」
苦しむ私に、彼はそう言い残し、消えた。
別れの言葉を告げることも出来ず、また、大切な存在を亡くした悔しさに、私は涙が止まらなかった。
そして、私は決めた。
私の大切な存在を追い詰めた神々も、人も、自分も、全てが許せない。
この世界に死という概念があるから、私の神は死んだ。
だから、その概念ごと全てを滅ぼそうと、決めた。




