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10-10


「変な邪魔は入ったが、そろそろ本題に入ろう。アマミヤユウマという密入国者がこの村にいると聞いた。奴は何処にいる?」

 死体処理(掃除)を部下にやらせたベラキファスが、村長のマーカスに向かってそう聞いた。

「……ユウマくんのことでしたら、冒険者としての道を歩むために、この村を出ていきましたよ。おそらく今頃何処かの町でクエスト準備でもしているのではないかと」

 震える声を自制し、マーカスは嘘と見破られないように、そう答えた。


 ベラキファスはいぶかしむような視線をマーカスに向ける。

 先程の教育という名の惨殺を目の当たりにして、長時間平静を保っていられる自信は、マーカスになかった。

 それでも、その言葉を訂正する気はない。やれば、不敬の罪に問われ、罪人として処刑されるのが目に見えていたからだ。

「ふっ……まあいい。今日はいいものを見つけられたし、その言葉を信じてやろう」

 そう言ったベラキファスはシルヴィの腕を引っ張りあげ、自分が乗っていた馬車に向かって歩いていった。

「やれ」

 その一言で兵士達はてきぱきと準備していき、シルベスタは兵士達に設置された簡易的な処刑場に連れていかれ首と手を木の板で固定させられた。

 しかし、シルベスタはその間に何の抵抗もしなかった。

「おばあちゃん! おばあちゃん!!」

 その姿を見ていたシルヴィは、連れていかれそうになるのを必死に抵抗しながら、喉が張り裂けそうになるほどの大声で呼び続ける。


 自分の近くに立った兵士が、剣を抜き放って高々と振りかぶるのが横目で見えた。

「……絶対諦めるんじゃないよシルヴィ…………元気でやんな」

 直後、体を固定されたシルヴィの祖母(シルベスタ)に深々と剣が突き刺される。

 悲痛の叫びが村人達の涙腺を刺激した。

 

 ……剣が背中を突き刺したが、それでも即死は出来ず、シルベスタの意識はまだあった。シルベスタの心臓は普通の人間と左右逆だったからこそ、兵士も気付かなかったのだ。

 そのため、その場にいた全員、彼女が死んだと思っているのか、話がどんどん進んでいく。


 見せしめにするとかで、そのまま帰ると言ったのが聞こえてきた。

 シルヴィの顔が涙でぐしゃぐしゃになっているのを見て、懐にある手拭いで拭いてやりたかった。

 だが、固定されているせいもあり手は動かなかった。腹部から垂れる血が、自分の死が近いことを教えてくれる。


「……すまないね、シルヴィ。母さんや父さんの代わりに……花嫁姿を見るって約束していたのに、あと少しのところで、わしも行けなくなっちまった。……シェスカ、無事に大きく育ってくれよ。……後は……頼んだよ……ユウマ。……シルヴィを助けてやってくれ。それがわし最後の望みじゃ。…………最期にまた……皆で…………食卓を囲みたかった……よ」

 その言葉を呟いたことでシルベスタの意識は完全に途絶えた。


「嫌だ! 嫌だよ、おばあちゃん! おばあちゃんまで私の前からいなくならないでー!!」

 少女の泣く声は、見えなくなった後もしばらく聞こえていた。

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