55-81
「君が地またで死神と呼ばれている子どもかい?」
5年が経ったある日、そいつは現れた。
気だるげそうに黒いローブを被った白髪のワカメ頭。
だが、ひょろっちい見た目とは裏腹に、巨大な鎌を手に持っていた。装飾なんてものはないシンプルなデザイン。だが、それが逆に、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。
絶対に手を出してはならないと本能が警告を発する。
しかし、アルゼンにとってそんなことは関係無い。
今まで幾度となく強い奴が現れた。だが、その度に、彼らは潰れていく。
「死ね」
今回もいつもと同じ、そう思い、アルゼンは手を使った。
自分の思い通りにしてくれる万能な見えない手。例え手が塞がっていようと、例え敵が何人いようと関係ない。
自分が潰れろと思えば、対象は一瞬で潰れる。
自分が殺せと思えば、対象は一瞬で殺される。
だが、それはその男には通用しなかった。
「変な能力だね……先天的なものではなく後天的なものか……とても面白い能力だけど……本物の死神にそれは通用しない」
最後の言葉が放たれるのと同時に、アルゼンの身体は一瞬で地面に叩き伏せられた。
「最近、君がだれかれ構わず人を殺しちゃうから、忙しかったんだ。悪いけど、これ以上僕も仕事を増やされたくないから君にはついてきてもらうよ」
そう言って近付いてくる死神に対し、アルゼンは何もすることができず、そのまま気を失ってしまった。
「……さて、これからどうしよっか……ん?」
死神がアルゼンを担いだ瞬間、彼は後ろを見た。
そこには少女が立っていた。
「……この子が心配かい?」
そう聞くと、少女は頷く。
「安心しな。この子は僕がちゃんと面倒を見てあげる」
そう言った死神は、指を鳴らす。
その瞬間、そこに一つの墓標ができ、アルゼンの近くにあった骨が、そこに掘られた地面の穴に独りでに埋まっていく。
「それは僕が造った特別製だ。君が生前には得られなかった安らぎを提供してくれる」
死神がそう言うと、少女は嬉しそうに微笑む。そして、心配そうに、少年の方を見る。
それを見て、死神は大きくため息を吐いた。
「君は心配性だなぁ。安心してくれ。僕は生者の言うことに従うつもりはないけど、亡者との約束を違えたことは無いんだ。だから、安心して逝きな」
そう言って、死神は少女に優しく微笑みかけた。
そして、彼はアルゼンを抱えたまま跡形もなく消えた。
少女は彼らが消えた場所を寂しげに見つめると、一筋の涙を流し、儚く消えた。




