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「メリアから手を離せ!!!」
それが、特殊能力を放つトリガーとなった。
木の枷がはめられた腕を奴隷に向ける。その姿に他の二人が子どもに何ができると嘲笑う。
しかし、その笑顔は一瞬で恐怖の色に染まる。
メリアの身体を掴んでいた男の腕が急にたたまれ、男は苦悶の表情を浮かべ始めた。血を吐き、メキメキと何かが折れる……いや、潰されていくような音が辺りに響き、奴隷の男は、メリアの身体を地面に落とすのと同時に生命活動を終えた。
そして、不思議な現象が起きる。
メリアの身体は地面に触れず、まるでなにかに支えられているかのように、空中で制止していた。
その光景の一部始終を見ていた貴族の青年が、もう一人の奴隷に子どもを殺せと命令するが、へたりこんでいた奴隷が奮起して立ち上がった瞬間、ぐちゃりという不快な音を立てて、地面に潰された。
それはまるで、巨大な鉄の塊に潰されたかのような呆気なさだった。
返り血が貴族の青年につく。
青年は恐怖でへたりこみ、後退りをするが、すぐに布で出来た壁が邪魔をする。
そして、無言で近付く彼に対して、必死に命乞いをした。
女、金、地位、名誉。
あらゆるものを差し出すから、命だけはと懇願する。
しかし、青年の提示するなかに、彼の本当に欲しいものは存在しなかった。
二度と手に入れることはできない。
彼女だけが傍に居てくれれば、それで良かった。
元気になった彼女と一緒に、色んな世界を見て回りたいと約束した。
だが、それはもう……叶わない。
そして、貴族の青年の命は、呆気なく散った。
それからというもの、彼は近付く者全てを殺していった。
白骨化した少女の骨を大事そうに抱えながら、彼は、気味悪がる者も、暴言を吐く者も、見てみぬふりをする者も、一人残らず殺していった。
彼の通った跡には死体があり、彼と会って生き残れる者など存在しない。
どんなに名を馳せた者であっても、歴戦の猛者として国に貢献した英雄であっても、彼に会ったら最後、皆等しく死体となる。
そしていつしか、彼は『死神』と呼ばれるようになっていった。




