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「……ですが、これだけは貴方にどうしても言っておかなければなりません。……カイザルク……私は別に、貴方が元人間だからという理由でNo.2の座を奪った訳ではありませんよ?」
その言葉に、カイザルクの目が彼女の表情を捉える。そこには、哀れみの視線をカイザルクに向ける女神の姿があった。
「貴方が人一倍私の為に動いてくれていたことは知っています。だからこそ、いつかはパルシアスと共に王として皆を引っ張ってもらう……そんな楽しい未来を見てみたいが為に……貴方をNo.2にしたのです。……でも、それが逆に、貴方から王となれる資格を奪う結果になってしまいました……」
「……どういう……ことだ……?」
今にも消えてしまいそうな声量で、彼は訊いた。
「……貴方の未来に期待し、No.2の座を与えた私に対し、他の眷族達は確かにその人選に文句を言った。でも、貴方の仕事ぶりが他の子達を黙らせた。きっといつか、貴方が王の資格を得るのだと、パルシアスや私を含めた全員がそう思ってた……でも、私は人間の信仰心を侮っていた……」
「……信仰……心……?」
「ええ、No.2の座を与えられた貴方は、今まで以上によく働いてくれたわ。それを見て私も、その選択は間違ってなかったのだと思えた。でも、もたらした結果は、王に相応しくないという結果だけ……貴方は、忠誠心が強すぎたの……」
その言葉がもたらした衝撃は、彼に体の痛みを忘れさせる程のものだった。
王の資格は元来、与えられるものだった。神が認めた者に王の座は与えられる。しかし、それには語弊があった。
真の王とは、神と眷族が互いに信頼を築いていなければなれない。
例えどんなに強かろうと、例えどんなに忠誠を尽くしていようと、神がその者に自身の力を分け与えてもいいと心の底から思える程の信頼度が無ければ、王の資格は得られない。
「でも貴方は……私ではなく、時空神という神としての私に忠誠を誓っていた。……それじゃ王の資格を与えることはできないの……」
その言葉は要するに、自分の行動がこの未来を引き起こしたということに他ならない。
自分を認めてくれた神の為に、全身全霊で尽くそうと動いたことで、そうなってしまった。
どんなに忠誠を尽くそうと、どんなに仕事をこなそうと、それは、王として認められるためには、不必要なものだった。
「……俺が……人間だったからじゃ……無かったんですね……」
涙を流しながら、カイザルクは時空神の方へと顔を向け、そして、驚くべき光景を見た。
彼女は、その瞳から雫を流していた。
「貴方が人間であろうとなかろうと、貴方は私の可愛い息子であったことに違いありません。他者になんて言われようと、貴方は私の自慢の息子。出来ることなら私も……貴方を王に選びたかった……」
自分が起こした行動の結果、俺は資格を剥奪された。それは、なんて理不尽なことなのだろうか……でも、不思議と後悔の類いは無かった。
……いや、理由は明白だ。
それは、俺自身がやりたいと思ってやった行動だったからだ。自分が敬愛する神に認められ、その神の為にこの身を尽くしたい。
そう思ってやったことが原因で王として認められなかったのであれば、それは自分が王に向いていなかっただけ。
なにより、元人間だからという基準で選ばれなかった訳ではない。それが何より嬉しかった。
「…………もっと……早く知りたかった……」
そう言った彼の体は既に顔以外が光の粒子と化していっており、既に顔も徐々に光の粒子となりかけていた。
そんな状態で、カイザルクは天井に向けていた視線を女神の方へと移し、光の粒子となりかけている口を開いた。
「……ごめん…………なさい…………母さん……」
そう告げたカイザルクは、女神に抱かれながら、儚く消えていった。




