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「なんでだ! なんで俺じゃなく、あんなガキを選んだ!!」
声を張り上げ、切羽詰まったように問いかけてくるカイザルクの言葉を、時空神は目を瞑ったまま、黙って聞いていた。
「俺は!! あんたに何千年もの間、尽くし続けてきた……パルシアスがやらなかったことだって、この俺が! ……ずっと……やって来たんだ……」
カイザルクの目から、雫が滴り落ちる。
それは、彼が心の底から問いたかった言葉。
彼女の眷族である限り、彼女の言葉は絶対で、例え理由を話されなかったとしても、例え納得していなかったとしても、彼は頷かなければならなかった。
神喰らいだとか、世界の粛正だとか、彼にとってはどうでも良かった。
人間だったことをバカにする眷族を殺すことと、あの時の真意を聞くこと以外、彼に目的はなかった。
同じ時空神の眷族達は言う。
カイザルクが元人間だったから、No.2の座を剥奪されたのだと。
わかっていた。
同じ時空神の眷族だとしても、自分の分身として造り出した我が子と、自分の手足となることだけに期待された養子。
どちらが選ばれるかなんて、どちらが大切かどうかなんて、一目瞭然だった。
だから、聞きたくなかった。
彼女の口からはっきりとその理由が聞きたくなくて、自分は彼女の傍に居ることをやめたのだ。
時空神は喋らず、カイザルクは彼女の答えを待つ。
長い沈黙は、カイザルクを更に焦らせる。そして、彼が時空神を急かそうとした瞬間、時空神が口を開いた。
「エパルの方が王に向いていた……ただ……それだけよ」
その答えは、カイザルクの心を抉った。
唇から血を出すほど強く下唇を噛んだカイザルクは大鎌を強く握りしめ、そして、雄叫びをあげながら時空神に襲いかかった。
しかし、その大鎌は彼女に届かない。
動作無しで放たれるその衝撃波に、カイザルクは為すすべなく倒れてしまった。
◆ ◆ ◆
倒れて、足元から徐々に光の粒となって消えていくカイザルクの傍に、時空神はゆっくりと近付く。
そして、絶え間なく涙を流し続けるカイザルクに言葉をかけようと彼のすぐ傍に正座し始めた。
「カイザルク……私の眷族達を殺した貴方をもう……許すことなどできません」
カイザルクは、その言葉を黙って重く受け止めた。




