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人間だった頃のカイザルクは、一人だった。
仲間と共に戦い、共に笑いあってはいたが、それはまやかしに過ぎないのだと、彼は知っていた。
他者は自分と違う生き物であり、例え親であろうと、兄弟であろうと、長年共に過ごしてきた友であろうと、彼にとっては等しく他人であった。
そして、二十歳になった時、遂に彼は自分の力を知ってしまった。
彼は、特殊能力【空間転移】が使えるようになってしまったのだ。
幸運なことに、彼は大人で、その特殊能力の存在が周りに知られれば、面倒なことになると知っていた。
神童と呼ばれる人間は、特別な力を持ち、それ故に他者とは違うという疎外感を感じてしまう。
それは、世界の常識であり、カイザルクはその日から、自分は特別な存在であると信じこんでしまっていた。
しかし、すぐにその考えが的外れなものであると悟ってしまう。
能力が目覚めて一年が経ったある日、自分に与えられた特別な力を駆使して世界を見て回っていたカイザルクの元に一人の男が現れる。
それが、パルシアスであった。
カイザルクはフレンドリーに接してくるパルシアスに対して偉そうな態度を取り、最終的に跪けと強要するが、パルシアスはそれを笑顔で拒否した。
その態度に苛立ちを覚えたカイザルクは戦闘を吹っ掛けるも、結果は惨敗。指1本触れることも出来ずに瀕死の重症を負わされた。
その日、彼は世界の理を垣間見た。
世界には選ばれた人間と選ばれなかった人間がいて、自分はその選ばれた人間であることに間違いはない。
だが、自分の知らない世界には、自分達を選ぶか選ばないかを選択する存在がいる。
そして、カイザルクは時空神の眷族となった。
最初は敗北したことで不貞腐れていた彼だったが、いつしか、世界中に存在する多くの人間の中から自分を選んでもらえた……そんな考えを抱き始め、彼は時空神に完全なる忠誠を誓った。
そして、何百年、何千年と月日が経ち、彼は遂にパルシアスに次ぐ地位を手に入れた。
眷族筆頭が居なくなった時、次の眷族筆頭になれる可能性を秘めたそのNo.2の座は、これまで女神に誠心誠意尽くしてきた結果なのだと自分を褒めた。
これまでの頑張りは無駄ではないのだと、頑張りが報われたのだと、自分を誇らしく感じた。
他の眷族達による、なんで元人間が……という意味が込められた侮蔑の視線がその時ばかりは勝ち誇れて気分が良かった。
同じ元人間だったバラドゥーマにも祝ってもらい、いつかは共に創世神の眷族筆頭として、優勝をかけて戦おう……そう約束した。
しかし、それから数年後、時空神は一人の少女を連れてきてこう言った。
「この子はエパル。カイザルクに代わり、これから私の眷族のNo.2についてもらう子です」




