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時空神の本拠を飛び出したカイザルクは、時空神の元に向かうため、特殊能力【空間転移】を使用し、アルゼンの元に向かっていた。
彼の特殊能力【空間転移】は、空間と空間を繋ぐだけの能力に過ぎない。しかし、彼の前にはどんな堅牢な城も、解錠不可能な金庫でも、異次元空間であったとしても関係ない。
彼はこの特殊能力が使えない空間でもなければ、どんな場所にでも一瞬で転移することができ、また、一度に大勢の生物を遠く離れた場所に送ることもできた。
そう、この特殊能力が使える限り。
カイザルクが入ったその空間は、自分の想定していた場所とはまったく違うように思えた。全面真っ黒でありながら、自分の姿や右手に握った大鎌ははっきりとわかる。
ここがどこかはわからない。こんなことは今まで起こった事がない。だが、一つだけわかったことがある。
ここに居続けるのはまずい。
その答えはすぐに出た。
だが、その時には既に、彼は彼女の策にはまっていた。
「なっ!? ……ゲートが出ねぇ……だと!!?」
カイザルクの顔はみるみるうちに青ざめ、もう一つの特殊能力【空弧】を使用して、空間に裂け目を作ろうとした。
しかし、そうしようと大鎌を構えた瞬間、空間に異変が起こった。
いきなりうねり始めたのだ。
そして、カイザルクの数メートル前方に、一人の女性が現れる。
白いドレスを身に纏った女性。
その薄い青色の髪は、この空間のようにウェーブしている。
真っ暗な空間であってもはっきりとわかるその存在を、カイザルクは知っていた。
女性を見た瞬間、カイザルクの表情が怒りに染まっていき、歯を軋らせる。
そして、カイザルクは容赦なく、その女性に向けて大鎌を振るった。
当たるはずのない距離ではあったが、すぐに空間の裂け目が発生し、それと重なる彼女の体を断ち切ろうとしていた。
しかし、空間の裂け目は発生した直後に、跡形もなく消えてしまった。
そして、女性は口を開いた。
「お久しぶりですね、カイザルク。炎の男神を利用し、私の目を掻い潜ったというのに……こんなところで何をしているのですか?」
まるで、先程の攻撃など無かったかのように平然とそんなことを聞いてくる時空神に対し、カイザルクは苦虫を噛み潰したかのような表情になる。
だが、カイザルクにもわかっていた。
むやみやたらに攻撃したところで、この空間を支配している彼女に勝ち目などない。
今こうして生きているのは、まさしく神の気紛れ。
自分の敗北はきまっているのだ。
ここから彼女に勝てるビジョンなど浮かばない。
諦めなければ勝てるなんて妄言も言えるような相手ではないとわかっている。
なぜならカイザルクは、ずっと彼女の傍で、彼女だけに尽くしてきたのだから。




