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条件が揃わないと最強になれない男は、保育士になりたかった!  作者: 鉄火市
55章:実習生、大切な存在を護るために戦う
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55-67


 死にゆく彼の表情に苦痛の色はあっても、後悔の色は見受けられなかった。

 そして、その人間はテュポーンに、自分の人生は多くの友人やかけがえのない大切な人と出会えた素晴らしい人生だったと伝え、こんな人生を送らせてくれた神には感謝してもしきれないと言って、安らかな表情で天命をまっとうした。

 その幸せそうな表情が、テュポーンには理解出来なかった。

 死とは辛いもので、大切な仲間と別れることは、この上ない苦痛だと身をもって経験したからだ。

 しかし、ハルマハラの言葉に嘘はないように思えた。

 長き時を生きる眷族と人間の違い。

 テュポーンはその日から、自分の名をハルマハラとした。

 少しでも人間の気持ちを理解するために。


 ◆ ◆ ◆


 優雅の表情が悔しさで歪む。

 また、あの時のように自分の手で仲間が死んでいく。それを嫌だと感じているのに、彼にとどめを刺せともう一人の自分が言ってくる。

 彼を殺したくないというのも本心で、彼を倒して前に進まなければいけないという考えも偽りではない。

「そんな顔……しないでください……」

 優雅の葛藤に気付いたのか、ハルマハラは瞼を閉じた状態でその言葉を告げた。

 咳き込み、血を吐く彼の姿は、見ていて辛いものがあった。

「私はもう……長くありません……最後の我が儘を許してもらえるのでしたら……最後まで……私の敵として……」

 その言葉を聞いた優雅は、自分の手にある銃に目を移し、そして顔を伏せた。

「……っっ……出来ない……」

 そう言った優雅に、ハルマハラは慈愛に満ちた目を向ける。

「……私は……愚か者だ!! ……最愛の息子を敵に回し、恩を受けた仲間を殺す……どうしようもない……愚か者だ!」

 優雅の目から大粒の涙が流れ、彼の震える声は、空間全体に響く。そんな彼を見て、ハルマハラは再び目を閉じた。

「……貴方は愚か者ではありませんよ」

 その言葉に、優雅はハルマハラの方へ顔を向けた。

「愚か者とは、他人に迷惑をかけているのだと理解していながら、それを平然と行える人間のことです。だから、信念をもって、あらゆる困難を乗り越えようと頑張っている貴方は、絶対に愚か者なんかではありません。私の大切な仲間です。私の誇れる大切な友人なんです。だから……私の大切な友人を愚か者なんて言わないでください……」

 その言葉を聞いた瞬間、優雅は歯を軋らせた。

 そして、優雅は乱雑に腕で涙を拭い、わかったと彼の顔を見て答えた。覚悟を決めた彼の表情を見て、ハルマハラは微笑みを向けた。

 優雅は彼を床に寝かせ、距離をとり、銃を彼に向けた。

「……最後になんか聞きたいことはあるか?」

 優雅がそう聞くと、ハルマハラは小さく笑う。

「では、最後に一つだけ……」

「……なんだ?」

「……あの時二人を殺したのは……貴方の意思ですか?」

 その質問を受けた瞬間、優雅は少しの間黙りこみ、そして、意を決したように彼の顔を見て、こう答えた。

「…………そうだ! だから、俺を恨め!」

 その言葉を聞いた瞬間、ハルマハラは長年の謎が解けたかのようなすっきりした表情を微かに見せた。

(相変わらず……嘘を吐くのが下手ですね……声が微かに上擦る感じ、何故だかあの子を思い出します……)

 その考えを声に出すことは出来なかった。

 死が近付いているのを、ハルマハラは察した。

 そして、優雅は銃の引き金に指をかける。

(……あぁ……二人の結婚式……最後に見たかった……)

 そして、発砲音がこの空間に響き渡り、一人の()()が、その一生を終えた。


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