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条件が揃わないと最強になれない男は、保育士になりたかった!  作者: 鉄火市
55章:実習生、大切な存在を護るために戦う
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「……ハナ、あなたの気持ちもわかる……」

 そう言われ、更に激昂しようとするハナの言葉を遮るように、メイデンは続けた。

「でも! ここで彼らを殺せばまた彼らのような人達が反乱を興す可能性がある。……私はもう、誰かを殺したくない……」

 メイデンがその言葉を告げた瞬間、ハナはまばたきをすることすら忘れる程の衝撃を受け、その身を固まらせてしまった。

 彼女がそんなことを言うとは思いもよらなかったのだろう。

 処刑人としての彼女であれば、間違いなくその真意を誰かに打ち明けることはなかったのだろう。

(……これもユウタンのお陰なのかな……)

 虚空を見つめてそんなことを思うハナの目には、既に殺意は宿っていなかった。

 そして、穏やかな笑みを、メイデン達に向けた。

「いいわ、話くらいは聞いたげる」


 ◆ ◆ ◆


 その後、私達はワイズオウルから改めて情報を聞き出したが、アゼスト(彼ら)は、必要以上の情報をワイズオウルには渡していなかった。

 ただ、いくつか衝撃的な事実がわかった。

 まず、数ヵ月前に起こったチャイル皇国襲撃事件は、彼らが起こした事件だった。

 大地の女神様が管理していた地獄を行き来できる神器の奪取。これが、あの悪夢を引き起こした目的だった。

 ……この話をユウタンが聞いていなくて良かったと、心の底から思う。


 死神の眷族筆頭アルゼンと時空神様の元眷族カイザルク。

 この二人とモンスター達によって引きおこされた事件。これは、10年前から計画されていたものだった。

 まず、この作戦は苦渋の策だったとワイズオウルは語った。

 モンスター達の襲撃は、身ばれのリスクが高く、本来は使いたくなかった最終的な案だと、アルゼンは言っていたそうだ。

 しかし、使わざるを得なくなった。

 一つ目の策が瓦解したことによって。


 一つ目の策、それはパルテマス帝国に戦争を仕掛けさせるというものだった。

 当時、パルテマス帝国は、ガイベラスという鉄の女神の元眷族によって裏で操られていた。

 子ども達を人質にし、王という操り人形を駆使して国を自分の望むままに動かす。

 そんなことをしていたガイベラスを、アルゼンとカイザルクは利用しようとしていたのだ。

 まず第1に、ガイベラスをカイザルクと引き合わせ、彼を言葉巧みに誘惑し、協力をこぎ着ける。だが、早々に行えば、創世神に目的を知られ、最終的な案がうまくいかなくなるのと、鍵を所持した状態のままでは、モンスター達が暴れ出すという理由があった為、国の戦力増強をガイベラスに提案した。

 本当の目的を知らないガイベラスは、モンスターと帝国軍という強大な軍を保持した優越感から、戦争を早々に行って世界を我が物にしたいと文句を言ってきたらしいが、時空神の介入が他の神にばれるといけないというワイズオウルの機転によって、彼は納得した。

 だが、戦争を引き起こす直前に、ユウタンとメイデンの手によって、ガイベラスは地獄に落とされ、戦争は起こらなくなってしまった。

 突然のこと過ぎて、ほとんどの計画は時期的に実行不可能と、言わざるを得なくなり、唯一残っていた最終手段を用いるしかないという状況にまで陥ってしまった。


 その方法が、モンスター達によるチャイル皇国襲撃であった。

 数年前から侵入していたアルゼン本人が動かざるを得ない危険な策ではあったが、内部に侵入していたアルゼンには、一つの秘策があったらしい。

 それは、チャイル皇国の第1皇子が皇王の座を奪おうと画策しているという話だった。

 クーデターの協力者として動けば、鍵の奪取をカモフラージュできる。そう考えたアルゼンは、チャイル皇国の第1皇子に甘い言葉を投げ掛け、操り人形に仕立て上げた。

 彼を遠くへ行かせ、鍵を受け取り、作戦の決行に移った。

 王室の地下深くにある埋め立て式の金庫。それこそが鍛治の男神が厳重に造った金庫であり、その中に、それはあった。

 禍々しく玉虫色に輝く鍵。それを精巧に造ったレプリカと交換し、彼らは目的を果たした。

 そして、彼らの目論見通り、彼らが行っていたことは今の今までばれていない。


 要するに、私達は出し抜かれたのだ。

 創世神様達も、彼らを元人間だと言って嘲笑っていた眷族達も、全員、アゼストと名乗る集団に出し抜かれたのだ。

 彼らを少しでも同じ眷族として見ることが出来たなら……

 彼らを少しでも認めることが出来たなら……

 こんな大事になっていなかったのかもしれない。


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