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10-8

「さて、お前達に聞きたいことがある。この娘はいったいどういうことだ? 見たところ10代後半なのではないか?」

 男はシルヴィの髪を引っ張って顔を上げさせると、村人達にそう問いかけた。


 その場所はシルヴィがいつも子ども達を預かる施設だった。

 そこに集められた子どもや村の大人連中は何も言わない。それがこの村の掟だから。

 シルヴィのことがもし兵士にばれたら知らない振りをする。

 それがシルヴィを庇う際にシルベスタが設けた条件だった。

「その子はわしの孫じゃ。大切な息子と息子の嫁が守ろうとした子だ。わし一人でここまで育ててきた。この村にいるやつは関与しとらん!」  

「…………おばあちゃん」

 シルヴィの目尻に涙がたまっているのを見て、シルヴィの関係者だと確信した男は、シルヴィから手を離しシルベスタの近くに歩み寄る。

「おそらく一人で育てたというのは嘘なのでしょう。他の者を守るために自分一人で罪を被る気ですか? 他の者達はあなた達を見捨てようとしているのに?」

「見捨てるも何もないさ。いきなり見知らぬ娘が出てきて、そのせいで殺されるなんて理不尽じゃ。最早わしに出来ることは、無関係の者達を巻き込まんようにすることじゃ」

 そう言ったシルベスタは男の指示に従った兵士によって捕らえられた。


(……婆さん……本当にいいのかよ。シルヴィちゃんはユウマ君の生きがいでもあるんだぞ! ……くそっ! こうなったら……)

(やめてくださいライアンさん。今ここであなたが動けばここにいる全員が殺されるんですよ! ……それにあの男……暗くてよくわからないが、あの威圧的な低い声は忘れられません。……将軍ベラキファスで間違いないでしょう)

(将軍ベラキファスだと!?)

 自分を制止してきたマーカスの囁き声に、ライアンは驚きを露にした。

(将軍ベラキファスといえば、S級冒険者相当の実力を誇る右将軍ガイベラスの右腕か? なんでそんな奴がこんなとこに)

(目的はわかりませんが、うちで最高戦力のハルマハラさんは腕をなくして満足に動けない。この場であの化け物と相手出来る方は残念ながらここにはいません。……どうしようもないんです)

(……ちくしょう。何やってんだユウマ君! このままじゃシルヴィちゃんが……)

「そこのお二方……安心したまえ」

((なっ!?))

 頭を地に伏せた状態を保ったまま小声で話し合っていたライアンとマーカスの耳元に、ベラキファスのものと思われる声が聞こえてきた。

(まずい……聴かれていたのか!? これじゃ婆さんの覚悟が無駄になっちまう)

 額から汗が噴き出てくるのを感じながら、ライアンは顔を真っ青にする。

「だから安心したまえと言っているではないか。この場であの若い女に制裁を下すのも悪くはないが、なかなか上質な女じゃないか。この女をここで犯すことはせんし、二人の覚悟に免じて、このばばあと娘以外のここにいる全員は無罪にする」

 その言葉に込められた意図が脳筋ライアンにはわからなかったが、マーカスにはなんとなくわかった。


 将軍ベラキファスは自分の欲しいものは力や権力、あらゆる手段を使って必ず手に入れようとする。

 奴隷商と裏で繋がっている噂もある程の男だ。そんな男が善意や同情で自分達を見逃すはずがない。

(……おそらくシルヴィくんが自分に従順な女になるための人質として我々を利用するつもりでしょうね……もしかするとここを離れた数日後には刺客を送りこんで我々を殺す腹積もりなのかも……)


 マーカスが今の言葉に込められた意図を探っているとベラキファスと思われる男が率いてきた兵士達が急に騒がしくなった。

「おいおい、ちょっと待ってくださいよベラキファス将軍!」

 ベラキファス将軍と呼ばれた男にそう言ったのは、彼に対して敬意の欠片も見受けられない若い兵士だった。

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