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桃色の髪の少女は、蒼色の瞳をまぶたで覆い、うすれゆく意識の中で、一人の男性を思い浮かべていた。
自分達を信じて送り出してくれた存在。
(…………助けて………………ユウタン……)
そう思ったとして、彼にその声が届くはずがない。彼女にも、それはわかっていた。
もっと色んな人がいるはずなのに、近くには他にも仲間がいるのに、不思議と彼に助けてもらいたいと思ってしまう。
出来ることなら最後は、彼に抱きかかえられたまま、死にたかった。
「甘えるな!」
意識が完全に消えると感じた瞬間、背後から声がかけられた。その声の主が誰なのか、ハナは見らずともわかっていた。
何百年と長い時を共に過ごしてきた存在が後ろにいるのだと、わかった。
「僕はハナちゃんをそんな軟弱な娘に育てた覚えはないよ!」
大地の女神は、霧のたちこめる部屋に入り、蔓で出来た厚い障壁の一部を開いて戦場に赴いた。
彼女はこちらを見るネビアを一瞥すると、うつ伏せに倒れているハナに声をかける。
「私の娘はいつだって仲間を大切にし、どんな時だって仲間を守る為に動いた。どんなに僕が止めようと、前へと突き進む。それが僕の愛するハナちゃんの姿だ! もし、君がここで諦めて死ぬというのなら、僕は止めない。だが、来るはずの無いヒーローを頼りにいつまでも踞ってるつもりだって言うなら話は別だ!! 今も全力で戦っている彼にこれ以上の負担をかけさせるな! 君に必要なのはヒーローなんかじゃない。君に必要なのはあと一歩を踏み出せるだけの勇気だ!!」
「……最後の言葉はそれで充分ですか?」
その言葉の直後に、ネビアは構えていた鉄扇を振るった。
ターゲットを殺すための鋭い刃が、大地の女神に向かっていくつも飛んでいく。
しかし、大地の女神には避ける意思が見受けられなかった。
そして、霧の刃が大地の女神に当たると思われた瞬間、地面から巨大な蔓が出現し、全ての刃から彼女を守ってみせた。
それは、ネビアにとって異常な光景だった。
先程までうつ伏せに倒れ、もう二度と立つことは出来ないだろうとふんでいた少女が、ふらつきながらだが、その両の足で立っていたのだ。
あり得ない。
いくら彼女が女帝と呼ばれ、ファミルアーテ3位の実力者だったとはいえ、こんなことがあり得るはずがない。
なぜなら彼女は、大地の女神に見捨てられ、下級神の眷族に成り下がったはずなのだから。
「…………わた……しの……」
ふらふらと立ちあがったハナが呟く。
その声に、ネビアは少しだけ怯えの色を見せた。
そんな彼に対し、彼女は告げた。
「私の大切な家族に……手を出すな!!!!」




