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目や鼻からも血を流し、ハナは膝から崩れ落ちた。
地面に手をつき、荒い息を吐く彼女には、何が起こったのかわからなかった。
掠れる視界で周囲を確認すれば、白い靄のようなもので視界が埋めつくされている。
(……いったい何がどうなってるの!?)
視界が朦朧とし、頭が痛い。
霧が危険であることを状況から把握し、霧は自分に近付けないようにしていた。にもかかわらず、体は猛毒を受けたかのように痺れる。
(……このままじゃ……早くどうにかしないと……)
ハナは必死に抵抗し、自分の周りにあった蔓を見えているネビアに向けて伸ばす。しかし次の瞬間、ハナの周りにあった蔓は破裂音と共に周囲へ飛び散った。
蔓のあった場所は、霧がより濃いように見えた。
驚愕した様子のハナに対して、ネビアは高笑いを響かせた。
「フハハハハハハハハ!! 蔓が霧の水分を吸収する!? 貴女は何を言っているのですか? 私と私の愛しき女神様の愛がこもったこの霧を? ただの眷族に過ぎない君程度が上回る?? 笑わせないでくれ! 『女帝』と呼ばれていい気になっている雑魚ごときに、私と女神様の愛の結晶を打ち砕くことなんて出来はしない!!! せいぜい残り短い人生は、霧になっていく苦痛と共に送ってくれたまえ!!!」
その言葉を聞きながら、ハナは力が抜けていく感覚を感じ、地面にうつ伏せの状態で倒れてしまった。
◆ ◆ ◆
扉の横にある壁にねんかかりながら、カリュアドスは扉の前で行われているやり取りに耳を傾けていた。
ハナがネビアに敗北した。
それほどまでに、今のネビアは強いのだということを改めて実感した。
だが、このまま彼女を放置する訳にはいかなかった。
彼女は自分が認めた男の婚約者。そのうえ、自分達の援軍として駆けつけてくれた。
カリュアドスには、見殺しにすることは出来なかった。
カリュアドスは地面にある砂鉄を用いて、彼女の正確な位置を把握し、これまでの者達同様、半球体の鉄を造ろうと手をかざした。すると、その手に女性の細く白い手が置かれた。
横を見ると、扉は開いていた。




