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会議が開かれる前日の夜、優真は液晶画面のある部屋に数名を集めて、席についていた。
そして、真剣な表情で優真は口を開いた。
「種はまいた」
その言葉がどういう意味を要するのかは、この場にいる全員がわかっていた。
この場にいるのは、ハナ、メイデン、万里華、エパル、そして、子どもを司る女神様、液晶画面には半分に分けて、カリュアドスと時空神が映っていた。
「明日の会議中、十中八九、創造神様と時空神様の本拠は攻められることでしょう。相手の正確な戦力がわからない以上、正確なところはわかりませんがね」
その言葉に、時空神と子どもを司る女神以外の全員が息を飲む。
「面白い意見ですね。そう思える根拠をお教えいただけますか?」
「わかりました」
内心を伺わせない笑顔を向ける時空神の質問に対し、優真はそう答えた。
「まず、破壊神様の眷族筆頭だけが生き残り、神喰らいが起こった件については、おそらく眷族筆頭バラドゥーマの仕業で間違いないでしょう」
「ふむ……炎帝の仕業でないという根拠は?」
「息子の勘です」
そう答えた瞬間、全員が驚いたような表情を見せ、中でも時空神は絶句しているようにも見えた。
「それだけじゃ根拠は少ないんじゃ……」
苦笑する主神の言葉に、優真は頷く。
「父さんは昔から将棋っていう遊びが好きで、小学生相手でも容赦しない人だったんだよ」
「……それが何か関係ある?」
「あの人が王の居ない戦場に赴く訳がない」
そう答えた優真は、絶対の自信があるように見えた。
破壊神襲撃の際、眷族と天使が殺されたのは破壊神が帰ってくる前だったという証言は、共に帰ってきたというバラドゥーマのものだ。
また、襲撃時に破壊神が外出していたところを見た者もいる為、そこは事実なのだろうと優真は推測していた。
「時空神様に教えられた条件を考慮したところ、元死神の眷族筆頭が絡んでいるのは間違いありません。ただそれは、バラドゥーマが戦っていたところに参戦した形なのでしょう」
「……だから、バラドゥーマにも時間をあえて教えたと?」
その言葉に、優真はゆっくりと頷いた。
「おそらくキュロスの存在は相手にとっても厄介でしょうし、一番厄介な創造神を殺るのにこの機会を逃す筈ないと思います。それに、教えなかった場合、ファミルアーテの誰かが襲撃されて情報が漏れる可能性は充分にあったと思います。戦力が減るくらいならそっちの方がいいかと……」
「……それで? 君はどうしたいのかな?」
その質問を聞いた瞬間、優真は自分を落ち着かせる為に一呼吸入れた。
「……申し訳ないのですが、明日の会議中は時空神様にこちらへ避難していただきたいのです。……空間を司る貴女様なら、誰にも気付かれることなくこちらへ来ることも可能なのではありませんか?」
優真は断られる覚悟でその提案を時と空間を司る女神という存在にした。
創世神の一角に数えられる彼女が危険だから避難しろと告げられ、素直に従うとは思えなかった。ましてや、その提案を行っているのは、下級の神の眷族。
万に一つも受諾する可能性はないだろうと考えていた。
だが、優真にも罪悪感があった。
彼女の眷族筆頭を殺したのは、他ならぬ自分の父親なのだ。それを否定する気など優真にはない。
だからこそ、数少ない友と呼べる存在が守ろうとした大切な神を代わりに守りたいと、優真はそう思っていた。




