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「……ワイズオウルなんて聞いたことない……」
メイデンがそう言うと、ワイズオウルは鼻で笑うような仕草を見せた。
「それはそうだろうな。確かにワレはお主が思っている通りファントムオウルだった。人間の言葉で言うなら変異種と呼ばれる存在なのだろう。だが、ワレは他のファントムオウルと違い賢知なのだ」
「ふむ、確かに他のファントムオウルとは違うみたいじゃな」
その言葉を発したのは、音もなくメイデンの隣に立った麒麟であった。
「わしですら見たことがない個体……なるほど……お前さんはSランクにも到達しているのじゃな?」
麒麟の言葉に、ワイズオウルは意を決したように麒麟の方へ顔を向けた。
「……そうだ。ワレは確かにSランクと呼ばれる存在だ。今回の件にミナを利用したのもワレだ……だから! ワレだけを殺せ!! ミナの特殊能力を利用し、全てのSランクモンスターを操っていた。ワレはこれを認める!! 麒麟様!! ……頼む……このちっぽけな命で……ミナだけは見逃してくれないだろうか……」
鎖に縛られたまま、頭を擦りつけるようにお願いするモンスターの姿を見た麒麟は、メイデンを一瞥し、ワイズオウルの方へと視線を向けた。
「断る」
その重々しい言葉に、ワイズオウルは悔しそうな表情を床に見せた。
「……わしは何も知らんからな。お前さんがこんなことをした理由も、お前さんらに何があったのかも何も知らん……じゃから、わしを折れさせてみろ」
その言葉は慈悲の心に溢れており、ワイズオウルの目から一筋の涙が流れた。
「…………わかった……」
ワイズオウルは震える声でそう言うと、語り始めた。
◆ ◆ ◆
ワレは最初に言った通り、ファントムオウルとしてこの世に産まれた。
だが、ワレは他の個体と違い、体も大きくならなかった。
他の個体と違い、亡霊を操ることも出来なかった。
出来ることは他のモンスターを操ることのみ。それがきっかけで、ワレは他の個体から忌み嫌われるようになっていた。
そんな折、この子と出会った。
人間など容易い。そう思っておったが、この子の傍にはSランクモンスターが数多くいた。
警戒するワレに、彼女はこう言ったのだ。
「一人なの? じゃあミナと一緒に遊ぼ!」




