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メイデンは苦戦を余儀なくされていた。
どんなに強いメイデンであろうと、ミナの特殊能力で超強化されたSランクモンスター相手では、そう簡単な話ではなくなる。
しかし、彼女も1対1であったなら、ここまで押されることはなかっただろう。
彼女が対峙しているのは6匹のSランクモンスター。
1匹は、素早い動きでこちらを翻弄してくるライガーの上位種、テンペストライガー。
1匹は、翼を広げたら10メートルもある白い鷹、ホワイトホークス。
1匹は、硬い甲羅が特徴的な、5メートル程の亀、ヘルトータス。
1匹は、長く太い体をくねらせて這いずる全長20メートルはあるであろう大蛇、ポイズンサーペント。
1匹は、先程まで壁を殴っていたエンペラーグリズリー。
1匹は、光の速さで敵を仕留めようとするライトニングウルフ。
そして、そのどれもが例外なく目を赤くしていた。
「やめて!! なんでミナの言うことを聞いてくれないの!!!」
少女は必死に叫ぶが、モンスター達は誰も耳を傾けない。
この異常から、メイデンは一つの答えを導きだしていた。
(……このモンスター達は誰かの手で操られてる……多分、あの子を地獄から出したのは彼女のSランクモンスターを利用するため……)
それがわかった瞬間、メイデンは彼女のモンスター達を操っている存在に対し、苛立ちが募っていった。
(……あの子を騙した相手は絶対に許せない……でも、その前にこのモンスター達が先決……)
そう思ったメイデンが取った行動は、回避行動ではなかった。
彼女はエンペラーグリズリーの前で立ち止まったのだ。
当然、目の前に現れた敵を仕留めようとエンペラーグリズリーは襲いかかった。
すると、突然エンペラーグリズリーの目の前に銀色の膜が現れた。
勢いよく突っ込んでいったエンペラーグリズリーは、そのまま銀色の膜に突っ込む。すると、不思議な現象が起きた。
軽くかわしたメイデンの真横にエンペラーグリズリーが着地した瞬間、エンペラーグリズリーの体は銀色になり始め、遂にはその体を硬直してしまったのだ。
エンペラーグリズリーの悲しい叫びを聞けたのは、ミナだけだった。
「ズリちゃん!?」
ミナの叫びに応える者はいない。
そして、たじろいだモンスター達に目を向け、メイデンが呟く。
「……まずは1匹……」




