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「……あの時の怖いお姉ちゃんだよね?」
そう聞かれて、メイデンは頷く。
それを確信した瞬間、ミナは怯えるように青ざめるが、すぐに首を横に振った。
「……大丈夫……ミナには皆がついてる……もうミナは一人ぼっちじゃないもん」
まるで自分に言い聞かせているかのように呟く彼女に、メイデンはかつての自分を重ねていた。
メイデンがミナを覚えていた理由は、彼女が異様に強かったこととは別に、もう一つの理由があった。
当時のミナは、眷族になったばかりだというのに、神を憎んでいた。
それは、傷ついたミナの主神を逃がすために殿として戦場に残った眷族筆頭と眷族達を皆殺しにするほどだった。
だからメイデンは、彼女の生い立ちを調べた。
そして、わかった。
ミナの住んでいた村は、神の怒りを買ったことで、彼女の親族を含めた村人全員が、一夜にして殺されたのだった。
彼女の住んでいた村は、美酒が有名だった。
その美味さには、神すらも舌を巻き、村はその日まで幸福な生活を送っていた。
そんなある日、その村が属する国の貴族が、村から貯蔵していた全ての酒を強奪した。
神に献上するはずだった酒はやめろという村人達の声も、その貴族は聞き入れず、結果、全ての酒は奪われた。
神に献上する日は刻一刻と近付いてくるが、今からではどうすることも出来ない状態だった。そして、村人達は最後の手段として、急いで酒を造り、出来の悪い酒を献上するという手に出た。
結果は言わずもがな。
舌の肥えていた神は、その酒に怒り狂い、村人の意見を聞くことなく皆殺しにした。
だが、当時8歳だったミナは、危機を逃れた。
彼女はその日、村には居なかったのだ。
彼女は自分の持つ特殊能力で得た新しい友達と共に前日から遊んでいた。しかし、Sランクモンスターに分類される彼女の新しい友達は、村に危機が迫っていることを感じとり、帰ろうとするミナを必死に引き留めた。
ミナは最初、友達の声に耳を貸さなかったが、他のモンスター達まで引き留めてきた為、仕方なくそれに応じた。
そして翌日、帰ってきたミナは見てしまう。
家々は焼かれ、家族や友人の死体が散らばっていたその凄惨な光景を、彼女は見てしまった。
揺すっても、声をかけても起きない家族。溢れ出す涙。彼女に出来ることは、嗚咽を漏らし、涙を流すことだけだった。
悲しむ彼女を慰める為に、彼女の友達はミナにこれは神が怒った結果だと伝えてしまった。
それが、彼女にとってのきっかけだった。




