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愛しき主の大切にしていたモンスターを殺した報い。
それを受けさせるという目的の下、ネビアは信頼できる眷族達を率いて、スティルマ大森林で待ち伏せを行った。
うまく罠にはめ、相手の誘導も完璧に決まり、全てが順調にいっているかのように見えたその作戦は、二人の眷族によって失敗に終わった。
一人は、こちらの眷族10人を相手していたにもかかわらず、圧倒的な力の差で防いだ『処刑人形』メイデン。
一人は、言葉巧みに騙した人食い族を蹴散らし、はぐれた少女二人を守った『女帝』ハナ。
この二人さえいなければ、あの時間を過ごさずに済んだ。
あの長く苦しい時間を過ごさずに済んだ。
その憎しみが、ネビアの表情を歪ませていく。
しかし、メイデンとハナが臆することはなかった。
二人は、神の居る間へと通ずる扉を護っていたカリュアドスの前に立つと、背後に巨大な壁を造った。
右半分を太い緑色の蔓が塞ぎ、左半分を銀色の太い茨が隙間なく塞いでいく。
「ここから先は行き止まり。通りたかったら私達を倒してからね?」
笑みを見せるハナがそう言うと、ぬいぐるみを抱きしめていた少女が動いた。
彼女は手に握っていた笛を吹こうと息を吸い込んだ。
そして、笛を吹こうとした瞬間、持っていた笛が何かに当たり、床を転がった。
笛にぶつかったもの、それは小さな十字架だった。
「……あの子の相手は私がする……あの子は危険……」
メイデンの言葉を聞いた瞬間、ハナは少しだけ意外そうな表情を見せた。
しかし、すぐにニッと笑いーー
「オッケー! なら、あっちは私がもらうね」
そう言って、ネビアの方を向いた。
◆ ◆ ◆
メイデンは少女の前に立ち、彼女の方に視線を向ける。
少女は憎しみと恐怖が入り交じったような表情をメイデンに向けていた。しかし、メイデン自身はそれを、当然のことだと受け入れている。
メイデンと少女は互いのことをよく覚えていた。
それは、互いに本気の死闘を繰り広げた仲だからだ。
今から20年前、一人の少女が神に大怪我を負わせたという一報がメイデンの耳に入った。
処刑人として早急に処理しろと言われたメイデンは、すぐにその場所へと向かった。
己の神に悪意をもって攻撃した場合、それは重罪になる。
少女は、まだ眷族になったばかりということもあり、創世神の眷族筆頭達の手を借りる必要もない。
その時のメイデンは、そう思っていた。
しかし、すぐにその考えを改めた。
なぜならその少女は、覚醒していないにもかかわらず、既に並の眷族筆頭達よりも強かったからだ。




