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守られたカリュアドスはその茨を見た瞬間、驚いた表情を見せたが、視界に入った少女の姿を見た瞬間、安堵したように小さく笑った。
「……ははっ……遅いですよ……」
カリュアドスが力なくそう言うと、少女も安堵したように小さく笑い、彼に背中を向けた。
「……お疲れ……後は私達に任せて」
◆ ◆ ◆
ネビアの前に突如として現れたその少女は、珍妙な格好をしていた。
少女が着ているその黒いドレスは、人間の使用人がよく好むメイド服によく似ていた。
しかし、普通の使用人が着るメイド服と異なり、見た目と動きやすさを最優先されたその服は、見目麗しき彼女が着ることによって一つの芸術のようにも感じられた。
長い銀髪と同じ色の瞳は立ち止まったネビアを見据え、少女は表情一つ変えずに、持っていた剣を彼に向けた。
「……子どもを司る女神様の眷族が一人、メイデン・クロムウェル。ご主人様の命により、主神の同盟主、大地の女神様、及びに鉄の女神様の助太刀に来た……」
張りのない声でそう言った少女に対し、ネビアは露骨な殺意を彼女に向けた。
「……メイデン……クロムウェル……」
歯を軋らせ、その名を呟く。
そして、憎しみの色に染まった表情でネビアは彼女を見て、鉄扇を構えた。
「……処刑するしか能が無い人形の分際で……また私の作戦を邪魔するって言うのか!! 身の程をわきまえろ!!!」
その叫びと共に、ネビアは鉄扇を振ろうとしていた。
しかし、急に腕や手が動かなくなった。いや、腕や手だけではない。いきなり地面から生えてきた蔦が、彼の足や首に巻き付けられたことによって、ネビアは完全に身動きを封じられた。
そして、彼の背後から声がかかった。
「私の実家で好き勝手した挙げ句に、私の家族を侮辱するなんて……身の程をわかっていないのがどっちか……教えてあげよっか?」
その声を聞いた瞬間、彼は一人の眷族を思いだし、尻目に彼女の姿を見た。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
桃色のローブを身に着けているその少女は、長い桃色の髪と蒼い瞳が特徴的だった。
そして、そんな目立つ特徴をしている女性を、ネビアは一人しか知らない。
「……くそっ……大地の女神の眷族筆頭……『女帝』ハナまで戻ってきたって訳か……」
ネビアが自分の体に巻き付いた蔦を霧化し、身を自由にしてそう言うと、ハナは楽しそうに右手の人差し指を振りながらこう答えた。
「チッチッチ~……私はもう大地の女神様の眷族筆頭じゃないんだよな~」
そう言うと、ハナは真剣な表情を見せた。
「子どもを司る女神様の眷族が一人、ハナ。うちの眷族筆頭の命により、同盟主、大地の女神様と鉄の女神様の助太刀に参った……ってね? これ以上、あなた達の好きにはさせないから」
そう言ったハナは、ネビアに不敵な笑みを向けた。




