55-38
ネビアの表情からは苛立ちの感情が露になっていた。
彼は怒鳴った。
「なにをたった一人に手こずっている! 貴様のペット共は死にかけただ一人殺すことすら出来ないのか!!」
ネビアはある方向を指差しながら隣の少女を問い詰める。
「ミナ悪くないもん。だいたいおじさんが弱すぎるから遅いんでしょ? ミナのせいにしないで!」
少女がそう言うと、ネビアは露骨な舌打ちをした。
そして、ネビアは問題の起こっている場所に目を向けた。
そこには、全身のあらゆる箇所から血を流しながら、荒い息づかいでかろうじて立っている銀髪の男性がいた。
目は朦朧としているというのに、その目が向けられれば怯みそうになってしまう。
そんな彼に、一匹のモンスターが襲いかかる。
巨体でありながら機敏な動きを見せるモンスター。だが、次の瞬間、モンスターの体を無数の粒が貫き、それは血渋きを放ちながら、倒れた。
「あー!! またミナの熊ちゃんが死んじゃったぁ……もう、おじさんなんて嫌い! ほら皆! とりあえず下がるよ!」
そう言った少女が手に持った笛を鳴らすと、銀髪の男性の周りに群がっていたモンスター達は一斉に少女の方へと振り返り、のそのそと少女の方へ向かってゆっくりと歩き出した。
「勝手な真似を……誰の為にでばって来てるのか忘れたのか?」
ネビアは怒りの感情を抑えながら、少女にそう言うが、少女は自分の手に抱くぬいぐるみを抱きしめながら、気持ちよさそうな笑顔を見せている。
「知らないもんね~……それよりいいの? 早くしないとやばそうだよ?」
「……ちっ、しょうがない。ここは私が殺りましょう。そっちはお任せします」
「最初から素直にそう言えばいいのに、ね~?」
少女はぬいぐるみに語りかけながら、楽しそうに笑った。
しかし、次の瞬間、少女の目が驚きで見開く。
そして、とある方向を向いた。
モンスター達と入れ替わりに突入したネビアは、死にかけのカリュアドスを殺すために、手に持つ鉄扇に力を込め、そして振るった。
次の瞬間、鉄扇による霧の刃が発生した。
霧の刃は、死にかけのカリュアドスに容赦なく襲いかかるが、彼はそれを防ごうとも避けようともしなかった。
「申し訳ございません……私はここまでのようです……」
そう言って、カリュアドスが目を閉じた瞬間、彼の耳にその声は届いた。
「【鋼鉄之王】!!」
その言葉が聞こえた瞬間、霧の刃は突如地面から現れた鋼鉄の太い茨に防がれた。




