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「無駄なもんか。キュロスのやったことは未来すら変えられる。少なくとも僕は、彼に力を貸したいと思ったよ」
高濃度のエネルギー砲が消えた瞬間、驚きで目を見開くバラドゥーマの耳にそんな声が聞こえた。
その声の主は驚くバラドゥーマと動かなくなったキュロスの間に着地した。
ゆっくりと音もなく地面に着地した青年をバラドゥーマは知っていた。
その姿を見間違える筈がない。もう二度と会えないと思っていた宿敵。クリーム色の髪をかきあげ、橙色の瞳で自分を見つめるその青年を見た瞬間、バラドゥーマは心が昂って押さえきれない。
時空神の眷族筆頭、パルシアスがそこに居た。
「やぁ、久しぶりだね、バラドゥーマ。前見た時よりも雰囲気がだいぶ違うみたいだね」
挨拶をするパルシアスは笑みを見せ、バラドゥーマもにやけた笑みで返す。
「お前は相変わらず遅刻か? いい加減ファミルアーテとしての自覚を持ったらどうだ?」
「今回ばかりは君に言われたくないよ。破壊神様の眷族筆頭としての自覚は無いのかい? 裏切り者につくなんて……君にはがっかりだよ」
「そうか? 少なくとも俺はお前らと一緒に堅苦しいことやってた時よりも今の方が断然楽しいぜ?」
「そっか……なら、君に一つ、面白いことを教えてあげよう」
パルシアスがそう言った瞬間、二人の立っている床に時計のような紋様が無数に浮かんだ。
「君はこれから死ぬ。それを僕が再現してやろう」
その言葉が放たれるのと同時に、床の紋様が一つ残らず光を放ち始めた。
バラドゥーマはその眩しさ故に、手で目を守った。
そして、光が無くなったのを確認すると、目の前の光景に舌打ちした。
そこは歪んだ空間だった。
足下に床はなく、立つのではなく、浮いているような感覚を覚える。前や後ろ、右や左、上や下、その全てが歪み、方向感覚が狂ってしまう。
そして、もう一つの特徴は、無数の時計が浮かんていたことだ。
「ようこそ、僕の隠れ家へ!」
その言葉が聞こえた方向へ目を向けると、そこには手を大々的に広げたパルシアスの姿しかなかった。




