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高濃度のエネルギー砲は、緑の大地を抉り、その残酷な痕跡を残していた。しかし、バラドゥーマの視界に映ったのは、塵となって消えた花ではなく、花に被さるような体勢で膝をついているキュロスの姿だった。
服は焼け焦げ穴が空き、露出した肌からは絶えず赤い血が流れている。
どこからどう見ても致命傷だった。
動かなければダメージを負うこともなかっただろう。しかし、彼はその蕾をつけた花を守るためだけに、瀕死の重症を負ってしまった。
その姿を見て、バラドゥーマは体の内から溢れ出す喜びを表現するかのように高笑いを始めた。
「勝った! 俺は勝ったんだ! 見ろ!! これが結末だ!! 全てを捨てて力を欲した者と、未だに咲いていない花すら見捨てられなかった者! 俺は正しかった! やっぱり殺ってよかった!! お前らの死は無駄にはならなかったぞ!!!」
そう言いながら高笑いを続けるバラドゥーマだったが、どこか虚しさを感じていた。
力を望み、自分は心の底から勝ちたいと望んだ相手に勝った。
これは自分が望んだ結末だというのに、歯に何かがつまっているかのような感じがして、どうにもすっきりしなかった。
(……本当に俺はこんな勝利を望んでいたのか?)
そんなことをふと思ってしまう。
(当たり前だ。俺はあの二人に勝つ為だけに力を磨いてきたんだ……勝って本望だろ!!)
自分にそう言い聞かせるが、他ならぬ自分自身が、それに納得していなかった。
あんな卑怯な真似をして、拳ではなく特殊能力によるエネルギー砲を使用した攻撃でトドメを刺す。
(……だったら俺は……何の為にこの拳を磨いてきたんだ?)
長い静寂が辺りを支配する。
そして、彼は動かないキュロス目掛けて手を掲げた。
すると、空間に亀裂が広がっていった。
「……もう、そんなことどうでもいいだろ……こいつさえ死ねば、きっと未練もなくなる」
そう呟き、バラドゥーマは拳を握った。
その瞬間、亀裂が一瞬で消え去り、先程よりも強大なエネルギー弾がバラドゥーマの前に現れた。
「お前の無様な行動は結局無駄だったってことだ」
そう言って、バラドゥーマは高濃度のエネルギー砲を再びキュロスに向けて放った。
避けることなど不可能。受けることすら不可能。
そんな一撃がキュロスに到達しようとした次の瞬間、その高濃度のエネルギー砲は跡形もなく、消え去った。




