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人が大切にしているものは、人それぞれだ。
どんなに感情の表現が希薄だと言われようと、どんなに自分を追い詰めていようと、どんな者にでも、大切なものは存在する。
バラドゥーマとキュロスの戦いは激化していった。
キュロスはバラドゥーマに狙いを定めさせるつもりがないらしく、超近距離での乱打戦が行われていた。
また、人間だった頃から格闘家だったバラドゥーマも、その勝負に乗った。
互いに高威力の蹴りや拳を放ちつつ、相手の攻撃をいなす。
これにより、互いに決定打がないまま、時間が過ぎ去っていこうとしていた。
そんな矢先、バラドゥーマがニヤリと笑った。
「ファミルアーテの第1位ともあろうお方が、そんな花1本を守る為に本気を出すなんて、情けないにも程があるだろ!」
バラドゥーマはそう言いながら、拳による一撃を繰り出すが、キュロスはそれを防いで蹴りを放つ。
「お前には本当にがっかりだよ。守ることに集中力を費やして、そんな馬鹿な真似をするなんてな!」
再びバラドゥーマが拳でキュロスを殴ろうとした。キュロスは腕をクロスしてそれを防ごうとしたが、攻撃をもらった瞬間、骨の軋む音と共に、鮮血が宙を舞った。
キュロスはその攻撃を受けた瞬間、顔を痛みで微かに歪ませ、思わずたじろいでしまう。
「お前があんなちっぽけな花に構わなければ、お前は今頃、俺とまともに戦えるだけの力を得られただろうに……」
そう言われたキュロスは何も言い返すことが出来なかった。
キュロスの特殊能力は、神器を創造することのできる力ではあったが、その真骨頂はそれを壊して一時的に己の力にするというとんでもない力だった。
単身でも他を圧倒する彼は、その特殊能力によって、更に絶大なる力を得る。
しかし、今回の戦いにおいて、キュロスが吸収したのは神器アイギスの楯ただ一つだった。
防御力は向上しているものの、それだけでは創世神の一角、破壊神の力を喰らったバラドゥーマの攻撃を防ぎきることは出来ない。現に今、防御力を貫通されて、重い一撃をもらった。
「まったく……そんなんだから、あんなちっぽけな存在に負けるんだよ!」
バラドゥーマは苛つきを表に出しながら、キュロスに殴りかかる。
腕を怪我したキュロスには、残念ながらその攻撃を防ぐことは出来なかった。




