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「……もう二度とあのような悲劇は見たくない……そう思っていたのですが、起こってしまったことを嘆いている場合ではありません! 私の可愛い弟子が住むこの世界を守ることが出来るのなら、この老骨の命、惜しみはしません!!」
ハルマハラの鬼気迫る表情に気圧されるも、優雅にも負けられない理由があった。
互いに互いのやるべきことがある。
命を賭けてでも、譲れないものがある。
(……神との戦いに温存しておきたかったんだがな……)
優雅は小さく口元を綻ばせ、昔のことを思い出す。
彼らとした冒険の日々、そして、自分が殺してしまった仲間のことを、思い出す。
そして、雨宮優雅は『王の領域』を使用した。
それは、神々しい光を放ってはいたが、ハルマハラのオーラと違い、どこか黒いものを感じた。
「お前相手に全力出さずに勝てる訳無いよな……」
優雅の言葉を最後に、二人の戦いは再開し、他人が入り込むことの出来ないような激戦が始まった。
◆ ◆ ◆
空間に亀裂が入り、それが割れるのと同時に世界の元に戻そうという力が働き、強力なエネルギーが凝縮していく。
それは、世界の理を利用した力に他ならない。
「おらっ! これでも喰らいやがれ!!」
バラドゥーマはそう言いながら、特殊能力で造り出した高エネルギー砲を、明後日の方向に放った。
そこにはキュロスがいる訳ではない。
しかし、バラドゥーマは外したにも関わらず、その表情をにやつかせる。
次の瞬間、高エネルギー砲の前に人影が現れた。
それはキュロスだった。
「砕けろ、アイギス!」
高エネルギー砲を前にしたキュロスは、特殊能力の力で造り出した神器を砕き、その攻撃を真っ正面から受けた。
数秒にもわたる抗戦状態を経て、キュロスは高濃度のエネルギーを霧散させた。
そして、一息ついたキュロスはチラリと自分の背後にあるものを見た。
守りたかった物は無事だった。
その事実を確かめたキュロスは、怒りを彷彿とさせる顔で愉しそうに笑うバラドゥーマを睨んだ。
「……昔の貴様はこんな真似はしなかった……」
「そりゃ昔の話だろ? 俺は生まれ変わったんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、キュロスは歯を軋ませる。
「……どんな相手だろうと、自分の力だけで戦い、常に上を目指していた。そんなバラドゥーマを、私は認めていたぞ?」
「俺は逆にガッカリだよ。そんな花の1本を必死に守ろうとするお前なんか見たくなかったよ……俺はお前を倒す為だけに俺を尊敬してくれていた家族達を殺したんだぜ?」
バラドゥーマは楽しそうに笑う。
家族を殺し、主神を殺した。
それなのに、彼はそれを笑いながら語ってくる。
その光景は、狂気染みていた。




