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冷たくなったシルベスタを前に、優真は膝をついた。
手と首を木の板で固定され、その顔には生気を感じなかった。
その背中に刺さった剣の先には凝固した赤い血がついており、地面に深々と突き刺さっていた。
昨日の朝、シルヴィと一緒に笑顔で送り出してくれた人。
『ほら、さっさと言ってきな。逃げたら承知しないよ!』
それがこの人からもらった最期の言葉だった。
……あんなにいい人だったのに、こんな見ず知らずの俺を助けてくれたいい人だったのに!
「…………なんで? なんでこんな優しい人が死ななくちゃいけねぇんだよっ!!」
「落ち着きなさいユウマ君」
「これが落ち着いてられる訳がないでしょ!! 買い物から帰ってきたら、なんで婆さんが死んでるんですかっ!! いったい俺が町に行ってる間に何があったってんですか!!」
その言葉にハルマハラさんは重々しい口を開いた。
「……昨日の夜だったんだ。昨日の夜、連中が……いや、国の兵士達がこのカルナ村を徹底的に探しにきたのだ! ……君を探しにね……」
その言葉は、俺の怒り狂った感情を冷ました。
……俺のせい?
◆ ◆ ◆
~昨晩~
時刻は9時を回っていた。
栗色の髪をツインテールにした少女は、森への入り口にあるベンチに座って誰かを待っている様子だった。
星の光とランタンの光しか光源しかなく、光に照らされた少女の表情は、暗いものになっていた。
そんな少女の元に、光の灯ったランタンを持っている老婆が近付いてきた。
「シルヴィ……いつまでそこで二人を待ってるつもりだい? もう9時をとうに過ぎたよ……」
「……おばあちゃん……二人とも遅いね」
「そうじゃな。……じゃが、こうなることも想定しとったじゃろ? もしかしたら、明日の朝にしか手に入らんものがあったのかんしれん」
「……そうね。子どもの安全を最優先に考えるユーマさんが夜の森にシェスカを連れていくとは思えないし」
そんな会話をしている時だった。
村の入り口にあるベンチに座っていたシルヴィの視界に微かに光が見えた。
真夜中の森に浮かぶ光は、揺らめき、その光をどんどん強めていく。
「……なんじゃ? あの光は……ランタンの炎かのぅ?」
「……でも今日は、ユーマさん以外に村の外へ出た人いなかったよね?」
そこでシルヴィは気が付いた。待ち人二人が帰還したのだと。
シルヴィは立ち上がり「ユーマさんっ!」と言って駆けだしていく。
「……はぁ、やれやれ仕方ないのぅ」
ため息を吐いた老婆は、嬉しそうに駆けていったシルヴィの背中を見守るだけだった。




